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デンシノオト   Aug 08,2017 UP
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 電子音楽はどこにいくのか。そして、どこにあるのか。「ここ」なのか。それとも「未来」なのか。たしに「電子音楽」という言葉の響きには不思議なテクノロジーへのロマンティシズムを感じるものだし、それは21世紀の現在でも変わらない。未来の音楽。未来への音楽。未来と音楽。未来/音楽。だがしかし未来とは論理的帰結であり、それゆえ抽象的存在でもある。そして未来とは「テクノロジー」の連鎖でもあり、それゆえ音楽とテクノロジー=技術工学は極めて密接な関係にある。楽器。録音技術。ステージング。そもそも、「音楽」自体は数学的な構造によって成立しているものだし、テクノロジカルな構造によって生成する現象でもある。となればいわゆる「電子音楽」は、構造/抽象の極限性ゆえ、つねに「音楽」の最先端=未来に位置する音楽といえる。アブストラクト(抽象性)に対する近似性の高さが原因であろう。同時に電子音楽には未知・未来への希求というロマンティシズムも横たわってもいる(シュトックハウゼンもクセナキスも私には途轍もないほどのロマンティシズムを感じる。むろん19世紀的なロマンティシズムを解体・炸裂させる戦争の世紀たる20世紀後半的な「光のロマンティシズム」だが)。ゆえに電子音楽は「工学」ではなく「芸術」なのだ。アブストラクトの余白にロマンティシズムがある。ロマンティシズムの向こうに厳密なテクノロジカルな論理と構造がある。そのテクノロジカルな論理構造の向こうに美がある。音階や旋律のむこうにある真のロマンティシズムへの希求は、ある地点においてはクールになり、その向こうで超越的な/逸脱的な美を希求する。電子音楽が永遠に先端である理由は、音楽の構成要素を一度、極限まで抽象化するからであり、「だからこそ」古くならない。すきまのようなものを生んでしまうから聴取が永遠に完結しないのだ。むろんテクノロジーと直結しているゆえ、音質の変化(新しさ・古さ)が表面化しやすいものだが、「完結しないという永遠」は、無限のロマンティシズムを生む。電子音楽の普遍性はそこにあるのではないか。それを強い「意志」として音響に定着したとき、人は真の電子音楽家に「なる」。そういえる音楽家/アーティストの数は決して多くはない。しかし、京都府出身の大塚勇樹は、数少ないそのひとりではないか。

 大塚勇樹(Yuki Ohtsuka)のソロ・プロジェクト、モレキュル・プレーンは、音色の生成と変化に焦点を当てたプロジェクトである。大塚のプロフィールに関してはリリース・レーベルのインフォメーションに詳しいのでそちらを読んでほしいのだが、一読してもわかるように大阪芸術大学で学んだ現代/電子音楽家である。彼は多層化空間音響システム「アクースモニウム」を研究・実践する電子音楽家であり(CCMC2012でMOTUS賞を受賞)、日本の電子音楽(ミュジーク・コンクレート)を牽引する人物だ(hirvi、synkメンバー。日本電子音楽協会会員)。しかし彼は自らの出自を踏まえたうえで、大きく跳躍・逸脱するアーティストでもある。Route09名義ではテクノ、エレクトロニカ、ノイズを越境し、2013年には京都の老舗電子音響レーベル〈シュラインドットジェイピー〉 から2013年に、imaとのユニットA.N.R.i.名義のアルバム『All Noises Regenerates Interaction』をリリースした(傑作!)。そのほかネットレーベルでのリリース、マスタリング・エンジニアとしての活動などその創作領域は多岐に渡る。大塚勇樹は、shotahiramaや松本昭彦などと並ぶ並び、現代日本の最先端(最前衛)に位置する新しい世代の電子音楽家といえる。

 2016年にリリースしたファースト・アルバム『アコースティコフィリア』は、音響に対して「そこにあるモノとしての圧倒的な存在」を与えようとしていた。つまり「そこに存在するマシン」のような電子音楽/音響作品であった。そして本年、〈きょうRECORDS〉から発表したセカンド・アルバム『SCHEMATIC』において、大塚はモレキュル・プレーンのさらなるアップデートを試みている。彼は、電子音楽の抽象性に、まず「モノ性」を与え、その向こうに未知の音響世界を見出した(『アコースティコフィリア』)。次は、その地点からあえてもう一度反転し、「時間」という抽象性=問題に立ち返る。オルタナティブな方法論で電子音響を構築・生成することで、「時間」も「空間」も「制圧」しようとしているように思える。聴き手の聴取上の距離感、空間意識、遠近法すら変えてしまうために。ファーストとセカンドで共通している点は、電子音楽の録音作品において「状況」を生みだそうとしている点であろう。そこに彼の本質的研究「アクースモニウム」の真髄があるのだろう(「状況」を生成するという意味において)。その意味で彼はミュジーク・コンクレートの(正当な)後継者であり、ピエール・アンリやリュック・フェラーリの系譜を継ぐ音楽家でもある。じじつ『SCHEMATIC』においても、さまざまなサウンド・マテリアルが圧倒的な高密度なコンポジションで持続・接続・生成している。その音響工作の手腕はため息が出るほど見事で、まさに若手随一の電子音楽家である。しかし同時に本作は最先端モードの電子音響作品でもある。〈ラスター〉や〈アントラクト〉の作品群と匹敵するほどに。

 1分47秒ほどの1曲め“ENFOLD”をオープニングとするように本作『SCHEMATIC』ははじまる。細やかな粒子の電子音が持続し、生成し、変化し、消えていく。大塚の鋭敏な耳の感覚をスキャンしたような緻密な細やかな音響は、本作全編に通じる質感である。続く2曲め“FILAMENT”は、“ENFOLD”のトーンを持続させながらも7分に及ぶ音響空間を一部の隙も構成によって聴き手の耳を「ハック/制圧」するように展開する。そして、この曲にも随所だが、本作のモレキュル・プレーンの電子音響はどこか神経的なのだ。聴き手の神経にアディクションするという意味だけではなく、音響それ自体が、どこか神経的なのだ。音と音、響きと響き、モノとモノが、複雑な(無数の)線(ネットワーク)でつながれ、音響・楽曲自体が自律している……、そんな聴取感があった。これは『アコースティコフィリア』でも感じた質感だが、『SCHEMATIC』の音響(の層)は、より神経化が促進/進化しているように思えた(「神経」とは「回路」か)。

 3曲め“SHELTER (Version)”において、その神経的な音響工作=交錯は、サウンド・エレメントの「時間」すら変形させてしまう。この曲には、本作特有の音響による持続=時間=空間の制圧行為がある。変化する持続音と乾いた物音は変形させられ、不規則の連続性の中で未知の電子音響を生成する。そして高音域の音が刺激的な4曲め“SCREAMER”では70年代的電子音楽を現代の音響的な精度で再(=差異)生成を行い、スタティック/ダイナミックな電子音響による聴覚の拡張を試みる。インタールード的な5曲め“UNFOLD”は刺激的な電子音響が耳に圧倒的な快楽を与える。短いトラックだがサウンド・マテリアルの生成、時間軸の操作、音響の接続と融解など極めて精度の高い曲だ。そして6曲め“DESTINY”と、13分に及ぶラスト曲“TIAMAT”において、『SCHEMATIC』の音響=時間=制圧/生成はクライマックスを迎える。アルバム全曲の技法を総括するような“DESTINY”と、それらの方法論をゼロ地点で一気に消失させた先に生まれたスタティック/マニシックな音響ドローン“TIAMATの実に鮮やかな対比=終焉!『SCHEMATIC』が提示する神経、状況、制圧の音響空間は一気に総括されていく感覚を覚えた。

 『SCHEMATIC』の自律的な神経/制圧感覚は、いわゆる「聴くこと」に依存しがちなこの種の音響作品において稀な感覚・体験であった。モレキュル・プレーンが真に重要な存在であるのは、電子音楽史に連なる「現代音楽」だからではなく、むしろ現代において、ありきたりな行為になってしまった音響聴取状況(通俗化したジョン・ケージの亜流のような?)に対する強烈な反抗心・抵抗心が、その端正な音響交錯のなかに息づいている点ではないか(事実、大塚はモレキュル・プレーンの活動を「ドローン・パンク」(!)と名付けている)。そして本作『SCHEMATIC』は、『アコースティコフィリア』と比べて(わずか1年ほどという制作期間の短さもあるだろうが)、その電子音響の生成/運動/質感がさらに強い吸引力を持っているように聴こえたのだ(むろん前作と新作、どちらが良いという話ではなない)。音響と聴き手の距離がより「近い」とでもいうべきか。サウンドへのアディクション力が強烈なのである。長尺の曲が多く占めるアルバムだが、長い曲(音響)を聴いたという感覚はない。まるで瞬間と持続が常に刷新されるような感覚を得た。これはどういうことか。

 あえて簡略化してみよう。前作『アコースティコフィリア』は「意志と存在の電子音楽作品」であった。対して、新作『SCHEMATIC』は「無意識と時間を制圧する電子音楽作品」である、と。徹底的に作り込まれた音響的精度がもたらすドローンと速度感覚、生成する音の快楽、イマジネーション喚起力の強さなどによって、本作のサウンドは聴き手の意識(ある意味、作り手ですら)の領域を超え、どこか「無=意識」の根底にアジャスト/アディクションする力をサウンドが持っている。無=意識へのハックは記憶と時間も制圧する。これは極めて興味深い現象である。なぜなら21世紀の現在、音楽はジャンルや形式を問わず、意識と無意識の領域を融解してしまう傾向が強いからだ。『SCHEMATIC』は、そんな音楽世界の感覚変容の問題に正統的ともいえる電子音楽によってアクセス/アジャストしていく。時間が、瞬間が、空間が、音響の中で、複座な回路/神経のように複雑に、緻密に、粒子のように、繊細に溶け合う。聴取の足場が揺らぐ。音響が記憶を制圧する。記憶が消失し、再生する。本作の聴取体験は強烈であり、美的であり、刺激的である。いまいちど、問い直そう。電子音楽はどこにいくのか。どこにあるのか。そのヒントは、この『SCHEMATIC』にある。

デンシノオト