ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Tohji - angel (review)
  2. Philip Bailey - Love Will Find A Way (review)
  3. Undefined ──注目のダブ・ユニットがUSの〈ZamZam Sounds〉から初のリリース (news)
  4. Zonal ──これは注目! JKフレッシュ、ザ・バグ、ムーア・マザーによる驚きのコラボ作がリリース (news)
  5. Kali Malone - The Sacrificial Code (review)
  6. Haruomi Hosono ──細野晴臣のドキュメンタリー映画が公開 (news)
  7. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第8回 電車の中で寝転がる人、ボルタンスキーの神話 ――2019年8月11日に見たものの全て (columns)
  8. Inoyama Land & Masahiro Sugaya ──イノヤマランドと菅谷昌弘の編集盤が、スペンサー・ドーランのレーベルからリリース (news)
  9. FEBB ──ファースト・アルバム『THE SEASON』のデラックス盤がリリース (news)
  10. Columns 万華鏡のような真夏の夜の夢 ──風車(かじまやー)の便り 戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)音楽祭2019 (columns)
  11. Eartheater ──アースイーターが新たにレーベルを始動、新曲を公開 (news)
  12. Calexico / Iron & Wine - Years To Burn (review)
  13. Battles ──バトルスが新作を引っさげ来日 (news)
  14. interview with Yutaka Hirose よみがえる1986年の環境音楽 (interviews)
  15. New Order ──すでに話題のニュー・オーダー来日情報 (news)
  16. Solange - When I Get Home (review)
  17. Ninjoi. - Masayume (review)
  18. Laura Cannell - The Sky Untuned / Laura Cannell, Polly Wright - Sing As The Crow Flies (review)
  19. Tohji ──いま若い世代から圧倒的な支持を集めるラッパーが、初のミックステープをリリース (news)
  20. Tunes Of Negation ──音楽にまだ未開の領域はあるのか、シャックルトンの新プロジェクトがすごい! (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Objekt- Flatland

Objekt

IDMTechno

Objekt

Flatland

Pan/Melting Bot

Tower HMV Amazon iTunes

三田格   Nov 28,2014 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ネオ・ナチと記念写真を撮っていた女性閣僚2人はそのままで、お金が絡んだ女性大臣は2人とも辞任。女性たちの積極登用がたどった結末は、日本人はお金が絡まないと真剣にならないということをさらけ出しただけだった。なんというか、品がない。お金より大事なものがこの国にはない。少なくとも国政レベルでは。そもそも国政というのは自由か平等かという問いの前で揺れるものなのに、日本人が選挙のたびに選んでいたものは「強い」につくか「弱い」につくかということだけだったとしか思えない。それもきっと「強い」には「お金」があったからで、流れに乗るという感覚さえじつは一度もなかったのかもしれない。スコットランドだって大きな譲歩を引き出したというのに、それぐらいの面白味を感じようとしたこともなかった。それとも流れがあるとしたら「日本人の判官贔屓」が稲田朋美のゴス・ロリでネオ・ナチという美学には勝てなくなってきたということか。

 2011年にセルフ・レーベルから2枚のEP『#1』『#2』でいきなりUKガラージのホープに躍り出たT・J・ハーツもデビュー・アルバムは〈パン〉からとなった。勢いがあるといえばそれまでだけど、ちょっと前まで〈パン〉がジョセフ・ハマーやキース・フラートン・ウィットマンといった実験音楽を主体とするレーベルだったことがウソのように思えてくる。〈パン〉に限らず実験音楽からテクノに乗り換えてくる流れは快楽主義に対する距離感が無邪気ではなく、どこか奥歯にモノが挟まったような感触も残ってしまうけれど、オブジェクトはスタートからフロア志向だったせいか、〈パン〉へのエントリーにはヒートシックやリー・ギャンブルとは正反対の意味が感じられる。それはかつてジェフ・ミルズが快楽主義に埋没せず、どれだけ「困難さ」をダンス・ミュージックにもたらすことができるかとした課題をトレースするもので、結果的にそれが次のタームを呼び寄せた(どころかトランスまでジェフ・ミルズに染まってしまうほどポテンシャルにあふれていた)ことを思うと、UKガラージがテクノへと回帰するベクトルのなかで大きな差異を作り出していくことは期待できる。実際、2014年はキンク(Kink)やヤング・マルコ、あるいはマトム(Matom)やアワント3(Awanto 3)などのデビュー・アルバムを僕も古くからのテクノ・ファンとして楽しむことは楽しんだけれど、慣れ親しんだ風景に浸っている以上の動機はなく、もはやテクノも大半は『ALWAYS』と同じだからである。エンペラー・マシーンのカムバック・アルバムにも僕はノスタルジーしか発動させられなかった。

 デリック・カーターとともにインダストリアル・ボディ・ミュージックのインパクトをブラック・ミュージックに反映させた先駆者としてのジェフ・ミルズはいつどこのタイミングでダンス・ミュージックの文脈から呼び戻されてもおかしくない存在である。シフティッド(Shifted)やルーシー(Lucy)、あるいは今年の台風の目となったエックマン「エントロピー」やドラムン・ベースのフェリックス・Kにさえ、その影響はこだまし、〈パン〉に限らず、ここ数年はとくにその気運が強かったと思える。オブジェクトがメロディというよりもジャズのアドリブのような音を断片的に撒き散らすことが多いのも、そうした印象を強める要因にはなっているだろう。オブジェクト自体はダブステップやベース・ミュージックに囚われることなく、この3年間でゆっくりとハード・エレクトロに舵を切っている。それこそデビューはSBTRKTとのスプリット・シングルだったものが、2014年にはドップラーエフェクトとタッグを組むほどデトロイトナイズされ、現在はベルリンを活動のベースとしているせいか、『フラットランド』に横溢している感触は90年代初頭にベルリンとデトロイトが結びついたモーメントを洗練させたように聴こえる部分が多い。サイバー・エレクトロとでも呼びたくなる“ドグマ(Dogma)”、それこそジェフ・ミルズを〈ラスター・ノートン〉がリミックスしたような“ワン・フォール・スウープ(One Fall Swoop)”、あるいは2拍子で突っ走る“ストレイズ(Strays)”など、イギリスではじまったレイヴ・カルチャーが持っていた猥雑さをムダのない機能主義へと向かわせたベルリンのストイシズムが基調には横たわっている。そして、アンディ・ストットに匹敵するデザイン感覚が発揮されていることも強調しておきたい。

 不思議だったのは『フラットランド』というタイトルである。これだけ豊富なリズム感を有しながら、どうして「平坦」だというのか。それは、しかし、リズムのことを指しているのではなく、ヴィクトリア朝を風刺した19世紀の中編小説に由来するらしく、詳しくはわからないけれど、ある種の視野の狭さを考察したものらしい。ジェフ・ミルズがいつしか宇宙人視点でしかものを見なくなっているように、少なくともオブジェクトは現在の音楽状況なのか、ダンス・カルチャーを見て「視野が狭い」と思うことがあるということだろう。〈ハッセル・オーディオ〉からのリリースもあるオブジェクトがデビュー・アルバムは〈パン〉を選んだ理由もそれに連動していたにちがいない。〈キーサウンド〉や〈テクトニック〉からシングル・リリースを重ねてきたビニースもアルバムは流れに乗って〈パン〉からとなるのだろうか?

三田格