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Hatsune Miku 10th Anniversary

Hatsune Miku 10th Anniversary

──『別冊ele-king 初音ミク10周年』刊行のお知らせ

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Aug 31,2017 UP

 エイフェックス・ツイン――この数ヶ月のあいだ、何度その名を耳にしたことだろう。たしかに、旧譜のリイシューもあった。コルグとのコラボもあった。フジへの出演も話題となった。しかし、仮にそれらすべての出来事がなかったとしても、この夏は何度もエイフェックス・ツインの名を聞くことになっていただろう。というのも、この本のために取材を申し込んだ方がたの多くが、まるで打ち合わせでもしていたかのように、揃ってエイフェックスの名を口にしたからである(ちなみにその次に多く挙がったのは、石野卓球とスクエアプッシャーの名だった)。エイフェックスと初音ミク――さて、これはいったいどういうことだろう?
 かつてエイフェックスは、何よりもまずそのサウンドの強度(荒削りなテクスチャー、ぶっ飛んだアシッド、美しいメロディ、レイヴ以降のアンビエント感覚、ドリルンベース、プリペアド・ピアノ、等々)をもって多くのリスナーに驚きと衝撃を与えた。そのことに間違いはない。けれど、彼の功績はそれ以外にもある。まるでダンスフロアから逃走しているかのように見えるその佇まい――そのイメージの影響力の大きさを無視することはできないだろう。もちろん、彼の生み出したトラックがフロアから完全に切り離されていたわけではない。だが、かつての「ゲームボーイ世代」や「ベッドルーム・ボアズ」といった蔑称が物語っているように、彼はいまで言う「引きこもり」や「ぼっち」的なるものの表象を引き受けていたように思う。
 リチャード・Dが自身のベッドルームに大量の機材を持ち込んで、おそらくはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら、たったひとりでそれらを徹底的にいじくり倒すことによって証明してみせたのは、連れなんかいなくても優れた音楽を生み出すことは可能である、ということだ――なんて言ってしまうと、いや、リチャード・D本人はトム・ジェンキンソンやマイク・パラディナスやルーク・ヴァイバートといった連中とつるんでいるじゃないか、という反論が飛んできそうだが、重要なのは彼の実生活ではない(と言うと今度はルフェーヴルやシチュアシオニストたちからお叱りを受けそうだが)。「ぼっちでいいじゃん」「連帯なんかくそくらえ」というイメージを、その圧倒的なサウンドの強度をもって世界中に散布したこと、それもまたエイフェックス・ツインの成し遂げた偉勲のひとつだろう。じっさい、彼のトラックからダンスそれ自体への欲動を聴き取ることはできても、クラブで顔なじみとじゃれあったり騒いだりしている人びとの風景を思い浮かべることはできない。たとえ社交性を欠いていたとしても、たとえ学校や職場で口をきく相手が皆無だったとしても、人びとの度肝を抜いて誰かを感動させる音楽を作ることはできる――要するに彼は、世界中の「ぼっち」たちに勇気と希望を与えたのである。
 それと同じことを、それとは違う形で実現してみせたのが初音ミクだった。ミクが取り払ったのは、「ウェーイ」というノリや「社交的じゃないと音楽はできない」という壁だった。その意味で初音ミクは、エイフェックス・ツインのまっとうな後継者である。だから、今回取材に応じてくれた多くのクリエイターたちの口から揃って彼の名が発せられたのも、けっして偶然ではないのだ。
 つまり初音ミクは、「異端」としてと同時に「正統」としてもエレクトロニック・ミュージックの系譜に連なる存在‐現象‐出来事だったのである。じっさい、この本に収められた佐々木渉のロング・インタヴューを読めばわかるように、あるいは彼と大友良英が旧知の間柄であったという事実からもうかがえるように、初音ミクの背後にはどっしりとエレクトロニック・ミュージックやアヴァンギャルドの文脈が横たわっている。しかし、なぜか(とあえて言うが)ミクやボーカロイドの音楽は当初、そことは異なる場所で大きな盛り上がりを見せることになった。おそらくその大きな理由のひとつに、ミクたちに付与されたキャラクターがあるのだろう。たしかに、10年前ほどではないとはいえ、いまでもミクのイラストを目にしただけで敬遠してしまう「音楽ファン」が多数存在するだろうことは想像に難くない。いまなおミクに対する偏見や先入観は「音楽ファン」たちのあいだに根強く残っている――少なくとも僕の目にはそんなふうに映っていた。
 だから、繋ぎたかった。ちょっとしたボタンの掛け違いで疎遠になってしまったふたつの世界を、改めて接続し直したかった。ルート(route)は違ってもルート(root)は同じはずだと、そう確信していたから。でもそれはたぶん、佐藤大の言葉を借りて言えば「映像端子に音声端子をぶち込む」ようなことなのだ。ぶっ壊れてしまうかもしれない。爆発してしまうかもしれない。じっさい、この本の制作を進めているあいだも、「そんなことは不可能だ」という厳しい意見を頂戴した。でも、だけど、やっぱり、だからこそ、繋ぎたかった。橋を架けたかった。だって、もし僕たちが何かを為さねばならないのだとしたら、その為すべき唯一のこととは、けっして為しえぬことであるはずだから。僕たちは、あらかじめ不可能だとわかっていることをこそ遂行すべきだと思うから。
 そんなわけで、学校や会社のような過酷な「戦場」でたったひとりサヴァイヴを続けているあなたに宛てて、あるいは、どこかの薄暗い一室でモニターと向き合いながら鬱屈した日々を送っているあなたに宛てて、そして、膨大な量のレコードに囲まれながらコアでエッジイな楽曲を流しつつ「アニメっぽいものは勘弁」と食わず嫌いを決め込んでいるあなたに宛てて、この本を送り出す。この本には、そんなあなたにとってこそ大きな意味を持つ何かが潜んでいる、と、そう信じている。

 最後に。あまりに慌ただしくて編集後記を書くことができなかったため、この場を借りてお礼を申し上げておきたい。初音ミク10周年で超絶多忙のなか取材に応じてくださり、全体のコンセプトや内容のバランスを勘案してくださり、また多くの方がたを紹介してくださった佐々木渉さん。さまざまなクリエイターや楽曲、その背景などを教授してくださり、構成を練り上げ、多数のレヴューを執筆し、いろんな取材の場でサポートしてくださったしまさん。べつの案件を抱えながら多くの取材をこなしてくださり、またそのキャリアに支えられた頼もしい観点からいくつかの興味深い原稿を執筆してくださった上林将司さん。この3人のうち誰が欠けてもこの本は完成しなかった。3人の尽力に心よりお礼を申し上げる。そして、この本には映像や音声以外の端子もたくさん仕込んであるのだけれど、それらを見事にデザインに落とし込んでくださった鈴木聖さんにも記して感謝を申し上げたい。(小林拓音)


contents

------------ Chapter 1
Hatsune Miku 10th Anniversary 初音ミク10周年

佐々木渉 ロング・インタヴュー ▶初音ミクの過去・現在・未来
大友良英 × 佐々木渉 対談 ▶初音ミクが変えたもの――20年ぶりの再会
佐々木渉 × しじま 対談
▶手塚治虫×冨田勲×初音ミク――狂気のコラボ作品がリリース!
伊藤博之 インタヴュー ▶クリプトン・フューチャー・メディア代表が思い描くクリエイティヴのあり方

------------ Chapter 2
Expansion and Deepening of Vocaloid Music ボーカロイド音楽の深化と拡張

■how to sing like human
[dialogue] Mitchie M × 佐々木渉 ▶もしもボカロが使えたなら
[interview] ピノキオピー ▶「ボカロでしょ?」という壁をぶっ壊す
[catalog] 人間のように歌わせる技術
[column] 上林将司 ▶ヴォーカル・シンセサイザーの変遷
■electronica
[dialogue] ATOLS × きくお / ばぶちゃん × 廻転楕円体 ▶電ドラ四天王、降臨!
[interview] Super Magic Hats ▶ヒューマンなものを作りたい
[dialogue] 曽根原僚介 × Yuma Saito ▶追悼 椎名もた(ぽわぽわP)――『生きる』は死ぬために作ったんじゃない
[catalog] エレクトロニカ
[comment] Laurel Halo
[critique] 仲山ひふみ ▶ミクトロニカから遠く離れて
[comment] Oneohtrix Point Never
■future bass
[column] しま ▶Future Bassとボーカロイド
[dialogue] 遠山啓一 × 米澤慎太朗 ▶物産展やろうぜ!――フューチャー・ベースの隆盛を経て
■rap / hip hop
[dialogue] 松傘 × でんの子P ▶ボカロにしかできないことを
[catalog] ラップ/ヒップホップ
[comment] Big Boi (Outkast)
[critique] 吉田雅史 ▶ジルとミクの出会うところ
■alternative / rock
[interview] DECO*27 ▶メロディをメロディにしていく作業
[critique] さやわか ▶ボカロの本丸としてのVOCAROCK
[catalog] オルタナティヴ/ロック
■classical
[critique] 八木皓平 ▶「模倣」と「解体」~冨田勲と初音ミクについて~
[critique] デンシノオト ▶〈光〉のオペラ/『THE END』論
■various styles
[catalog] 様々な歌唱のあり方
[catalog] R&B、レゲエ、ジューク/フットワーク、ジャズ、etc.

------------ Chapter 3
Various Views Surrounding Hatsune Miku 初音ミクをめぐるあれこれ

上林将司 ▶「初音ミク」というMMORPGを始めて10年経った話
かんな ▶MikuMikuDanceの文化と歴史
佐藤大 ▶映像端子に音声端子をぶち込むように
辻村伸雄、片山博文 ▶歌う惑星――初音ミクのビッグ・ヒストリー的意味
HAPAX ▶初メテノ音、未ダ来ラズ――絶対的な孤独への道標

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