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Home >  Interviews > interview with Shintaro Sakamoto - 坂本慎太郎、新作『物語のように』について語る

interview with Shintaro Sakamoto

interview with Shintaro Sakamoto

坂本慎太郎、新作『物語のように』について語る

取材:野田努(■)+松村正人(▲)    写真:松村正人   May 19,2022 UP

そうですか。でもまあ最初におっしゃった、明るい曲にしようとしたというのはその通りで、そういうの目指してました。明るいっていってもあれが俺のできる明るさの限界ですけど。

リスナーから、「坂本さん、これは現在がひどいから過去への郷愁を歌ってるんですか」と訊かれたら、なんと答えます?

坂本:それもありですけど、あんまり「昔はよかったね」とか言いたくないんですよ。

それはよくわかるよ。コロナ禍はどんな風に過ごしてました?

坂本:もともとずっと籠ってるようなタイプなんで、ライヴはなくなりましたけど、普段の生活はそんなに変わってないです。よく考えるとライヴもそもそもやってなかったから。飲みの誘いが無くなって、その分作業に専念できる、というところでした。

▲:作業というのは曲作りの?

坂本:曲を作ったり、考えたり、でしたね。

「好きっていう気持ち」とか「ツバメの季節」という2枚のシングルを出しましたが、これはどういう気持ちだったんですか? これらの曲は、坂本君にしたらすごく素直にセンチメンタルな、当時の気持ちを表現したのかなと思ったけど。

坂本:あれは、コロナになってライヴとか、アメリカ・ツアーを予定してたのが全部飛んじゃって、やることないから宅録っぽいアルバムでも作ろうかなと思って。古いリズム・ボックスとか好きだから。そういうイメージで作業をはじめたんですけど。1回ライヴをやるかもみたいな感じになって、スタジオにメンバーと入ったんですね。ちょっと練習してたんですけど、ライヴがやっぱりできないことになって、練習していたのが無駄になったし、スタジオも予約していたので、せっかくだし今作ってる新曲をバンドでやってみたら、ひとりで作ってるよりみんなで生でやるほうが面白いな、と思って。それでシングルにしたんですよ。アルバムにするには曲が全然足りなくて、アルバムにいくのも先になりそうだし、そのときあった4曲をシングルで出したんですよね。だから、その時期のムードとか思ってることがそのまま出たって感じ。だけどちょっと、今回のアルバムはあんまりメソメソしたこととか言いたくなかったので、また違う感じになってると思うんですけど。

▲:アルバムはそういう(シングルの)感じじゃなくしようと思って作ったんですが?

坂本:いや、全然イメージが湧かなくて、歌詞が難しいなと思って、コロナになってますますですけど。インストの音楽だったらできるかもしれないけど、歌詞がある曲をわざわざリリースするときに、どんな言葉を歌うとしっくりくるかが難しくて。なんとか、こんな感じだったら歌えるかな、となったのが、さっきの4曲だったんですけど。ただそういうことがアルバムでやりたかったわけじゃなくて、もうちょっと突き抜けたものにしたかったんで。

それはすごいわかりますね。

坂本:「コロナで大変だ」みたいな感じとか、「社会状況がキツいね」みたいなのを出すんじゃなくて、そこを抜けていく、突き抜けていく感じを出したかったんです。

コロナだけじゃなくて、オリンピックがあったり、小山田圭吾君のこともあったり、海外だとBLMもあったり、戦争があったり、この3年ですっかり世界が違うものになっちゃったじゃない。

坂本:もちろんそういうの全部、感じてるし、それぞれに言いたいこともありますけど、全部を超越したような、スカッとした楽しい気分になれるような……

たしかに1曲目、2曲目はそんな感じでてる(笑)。突き抜けるような。

坂本:うまく言えないんですけど、見ないようにして、無理して明るく、というのではなく、こういう状況にありながら楽しめる、というすごい細いラインを模索して、なんとかここにきたという感じなんですけど。

素晴らしい。

▲:これまでのアルバムのなかで作るのはいちばん大変だったですか?

坂本:そうですね。歌詞が、途中からできてきたんですけど、途中まではできる気がしなかったですね。無理矢理考えてもダメなのはわかってるんで。

▲:そういうときはひたすら待つんですか?

坂本:あと散歩ですね。

ちなみに、言葉が出てきたきっかけとかなんかあるの? その後の方向性を決めたような。

坂本:最初にできたのが、"物語のように"という曲なんですけど。曲自体はけっこう前からあって、自分のなかでは悪くはないけど、とくに新基軸な感じもしないし、と寝かせてあった曲なんですけど、ある日言葉がハマって。歌詞ができる前からスタジオで演奏してたんですけど、デタラメ英語みたいな感じで。でも歌詞ができて日本語で歌ってやってみたら急に良くなって。なんてことない曲だと思ってた曲でも、言葉がハマると急激に曲になるというか、その感じを実感して。それから、簡単な言葉とか、さりげない言葉でピタッとハマって、キラキラさせる、みたいな方向性がちょっと見えたかもしれないです。

▲:"物語のように"の一節が最初に出てきたんですよね? この一節が最初に降ってきた、と。

坂本:そうなんですけど、"物語のように"という曲で「物語のように」から歌い出すといまいちかな、と思って……

▲:なるほど(笑)。それで同じ譜割りで言葉を探して?

坂本:割とスルッと出たんですけどね。

ちなみにその次の曲、"君には時間がある"もキャッチーな曲なんですけど、この歌詞はやっぱり自分の年齢があって、若い「君」ということでいいんですか?

坂本:この曲ができたとき、まだ歌詞はなかったんですけど、なんとなくアルバムが見えてきたと思ったんです。「こんな感じの曲ばっかりのアルバムにしたいな」と。ただデモの雰囲気を変えずに歌詞を乗せるのが大変でした。デタラメ英語で歌ってる譜割りを崩したくなかったし、あと曲のイメージが変わっちゃう、というところで苦労したんですけど。だから野田さんが言ったようなことを言いたくないなと思って。

(笑)。

坂本:いわゆる「我々には残り時間がない」とか、そんなこと言いたくないなと思って。本当はもっと馬鹿馬鹿しいことを言いたかったんですけど、サビのところで「君には時間がある」という言葉がハマっちゃうと、もう動かしようがなくて。

なるほど(笑)。

坂本:安田謙一さんから、「君にはまだ時間がある」「僕にはもう時間がない」の「まだ」と「もう」を省略してますね、と言われて。それ言うとさっき野田さんが言った意味になっちゃうから、俺は単に忙しい、お前は暇だ、という意味も入れたくて。最初は逆に考えてたんですよ。「俺は時間があるけど、そっちにはない」みたいな。でもそれはそれで反感買うかな、と思って。

一同:(笑)。

坂本:いろいろ考えて、そういうマイナーチェンジはしてるんですけどね。

音楽の歌詞って、サウンドと一緒になって初めて意味を成す、ということなんだけど。でも、歌詞だけ読むとすごくディープにも取れるようなね。

坂本:だから、本当は全部青春っぽい歌詞にしたいんですけど、誤解を恐れずに言うと(笑)。自分が求めてる音楽はそういうやつなんだけど。

▲:『アメリカン・グラフティ』みたいな?

坂本 そうそう。そういう単なるラヴ・ソングみたいなのなんだけど、歌詞で言ってるのとは違うこと表現してるみたいなの、あるじゃないですか? 『アメリカン・グラフティ』もそうだし、ロカビリーとかも。でもやっぱり、俺が学園生活の恋愛とか喧嘩とか、自分のないもの出せないし、青春ぽくも読めるけどリアルな自分の年齢のぼやきにも取れるギリギリを狙っていて。

なるほどね(笑)。「未来がどうなるかわからないから、いまを楽しもうよ」という風にも聞こえるよね。

坂本:そうですね。一応ギリギリのところでやったつもりなんですけど。

▲:その通りになってると思います。

坂本:でもたしかに野田さんが言ったようなことももちろん入ってますけどね。

いろんな意味にとれるから面白いんだよね。

坂本:たぶん若い子が聴いたら、そういう風にはとらないと思う。

リスナーの立場によって変わってくるのかな、と思うよ。

坂本:同世代とかは、正しくとると思うんですけど(笑)。

“まだ平気?"の歌詞も面白いなと思ったんですよ。

▲:2番の韻の踏みかたとかも素晴らしいと思いました。

これはなんで出てきたの?

坂本:これも曲が先にあって、こういう譜割りのメロディがハマってたんですけど、それを崩したくなくて、けっこう苦労したんですよね。やっぱり考えすぎると真面目っぽくなっちゃうし。

最初の2曲が時代を捉えようとしていると思ったんだよね。

坂本:どちらかというと、ぼくは後半みたいな、1、2曲目以外の曲だけで10曲作りたかったんですけど、まあいいのかなと思って(笑)。

一同:(笑)。

▲:でも流れとしてはこの2曲と繋がりもけっこうありますしね。場面として分けて考えることもできるアルバムだと。

坂本:一応流れはあるんですけど、そういう風に聴く人はいないらしいので。

いや、まだそんなことないんじゃないですかね。

▲:シングルを順番に並べてるような聴こえかたもするな、と思って。

A面B面A面B面という感じで? なるほどねー。いやーでも2曲目をB面にするのもったいないな。

一同:(笑)。

▲:そういう話じゃないですよ(笑)。アルバムの構成ということでも、聴き方をいろいろ考えさせるアルバムだな、と感じました。

取材:野田努(■)+松村正人(▲)(2022年5月19日)

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