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 interview with  Richard H. Kirk(Cabaret Voltaire)

interview with Richard H. Kirk(Cabaret Voltaire)

キャバレー・ヴォルテールの完全復活

──リチャード・H・カーク、インタヴュー

質問:野田努    通訳:坂本麻里子   Nov 16,2020 UP

で、ほら、我々はいまやああいうディストピア的な立場に立たされているわけだろう? ブレクジットがあり、そしてミスター・トランプが登場し……

あなたは昨年9月のPOP MATTERSの取材で、「I think it's more necessary now to be politicized(いまはより政治化することが必要だと思う)」と語っていますが、時期的に、おそらくは、それは今作を作っているときのあなたのスタンスでもあったと思います。先ほどもおっしゃっていたように、キャブスはこれまで政治に関しては直裁的な表現よりも、仄めかしであったり、リスナーに考える契機やテーマを与えるみたいなやり方をしてきましたが、今作では政治的な意識がより強く出ているとみていいのでしょうか?

RHK:どうなんだろう。自分じゃわからないな……だから、作品をダイレクトに政治的なものにするか云々に関しては、ずいぶん前に決めたからね──たとえば、70年代後期にはザ・クラッシュのような、政治的なスローガンをがんがん掲げるバンドがいたけれども、それよりもむしろもっと、自分は影響を与える、あるいは暗示することを通じてそれをやろう、と。わかるかな?

はい。

RHK:うん。あからさまなスローガンをやるのは自分はごめんだ。なにもかもが政治的なんだしね……。ただ、いまの状況の在り方というのは……人びとも政治を意識せざるを得なくなっているんだと思う。だからまあ……(嘆息して苦笑)ヒトラーが政権をとってナチス・ドイツが生まれた頃のようなものだ、と。ヨーロッパからブラジルに至るまで、非常に右翼思想の強い連中が存在しているし。

世界中にいますね。

RHK:うん、どこにでもいる。というわけで、その状況は……だから、(ゴホゴホと軽く咳き込む)ほら、生涯ずっとファシズムに対して憎しみを抱えてきた自分のような人間とっては……それこそ、(苦笑)「義務だ」とでも言うのかなぁ、この現状に抵抗・対峙しようとするのは! というのも、そうなったらいずれどうなっていくかを我々はもう知っているんだし。たくさんの人間が死ぬことになり、人びとは服従させられながら生きることになる。

ということは、このアルバムは一種の警告?

RHK:んー……そうなのかもしれない。そうなのかもね……?

というか、警告どころか、既に起きているとも言えますが。

RHK:イエス。

“Night Of The Jackal”という曲名の由来を教えて下さい。映画『ジャッカルの日』(“The Day Of The Jackal”/1973。フレデリック・フォーサイス原作の政治スリラー小説の映画化)を思い起こしましたが、この由来は?

RHK:……まあ……あの曲、“Night Of The Jackal”には、とにかくこう、この曲の起源はアフリカにあるなと思わされるなにかがあった、というか……。

(笑)なるほど。

RHK:だから、いま言われた映画とは直接関係はない。そうは言いつつ、『ジャッカルの日』は、大好きな映画のひとつだけどね。あれは本当にいい映画だ。とても、ある意味とても興味深い映画だよ。でも……残念ながら、申し訳ないけれども、あの映画はこの曲のインスピレーションではないんだ。ただ、たしかあれはイラクかイラン産の映画だったと思うけれども、『Night Of The Jackal』みたいな題名の作品があったはずだな……?

そうなんですね。後でチェックしてみます。

──いやいや、おぼろげな記憶だから、確証はないけれども。(訳注:サーチしてみましたが、当方ではそれに該当しそうな作品は見つけられませんでした)

了解です。

──ただ、こう……あの曲にはなにかしら、一種の緊張感がそのなかにあった、というのかな。ジャッカルはアフリカに生息する動物だし、大型のキツネみたいなもので、狩猟好きな動物で、しかもすごく鋭い牙の持ち主なわけだから(笑)。

もう1曲、“Papa Nine Zero Delta United”のタイトルの由来はいかがでしょう。「もしや9.11のことか?」とも感じましたが?

RHK:いや、そうではないよ。あれは実際の……以前にもああいうタイプの声を作品で使ったことはあったけれども、あれは基本的に、飛行機のパイロット同士がやり取りしている模様で。短縮された用語を使って対話している、と。あの用語がなんと呼ばれるのかは知らないが、短波ラジオを持っているからあの手の会話を傍受できるんだ。とても薄気味悪いんだよ(笑)、喋っているのがどこの誰かも、その人間がどこにいるのかもわからないからね! 実はあれは……かなり前の話になってしまうけれども、マレーシア航空の旅客機が2機、墜落したのは覚えているかな?

ありましたね。

RHK:1機はたしか、ロシアかウクライナの発射したブーク・ミサイルに撃ち落とされ、もう1機はこつ然と消えてしまった(訳注:前者は2014年7月に起きたマレーシア航空17便撃墜事件。後者は同年3月に370便がインド洋に墜落したと推測される事件)。あの事件が、自分の頭のレーダーにあったんだよ。それもあるし、わたしは飛行機嫌いでね。空旅はやりたくないんだ。

そうなんですか。飛ぶのが怖い?

RHK:ああ、もちろん。もう20年も飛行機には乗っていないよ。移動には列車を使うから。

ある意味いまの状況には合っていますね。COVID-19絡みの規制が多く、海外に飛ぶ旅客は減っていますし。

RHK:そう。でも、ラジオで誰かが言っていたのを聞いたけど……COVID感染に関して言えば明らかに、旅客機内の環境はそれほど危険じゃないらしいよ。エアコン設備のおかげでウイルスが四散するんだそうで。

(笑)なんか眉唾ものの説に思えるんですけど……。

RHK:いやだから、そもそもその説はアメリカ軍の唱えているものだっていうね、ハッハッハッハッハッ!

(苦笑)信じない方がいいですね。

RHK:そうだね、信じられない(笑)。

(笑)。『Shadow Of Fear』というタイトルはどこから来たのでしょうか?

RHK:(ゴホッ、ゴホッと咳き込んで)それは、あれがとてもいいタイトルだからであって(笑)……実に心になにかを喚起するタイトルだし、それに……自分でもわからないな。とにかくあれが、このアルバムを作っていた当時の自分の感じ方だった、としか言えない。まとめに取り組みはじめたのは……昨年9月のことだったし、そこから作品を完成させた4月までの間に……イギリスにはこの、ブレクジットというものがあってね。いまもまだ続いているけれども(訳注:イギリスは2016年の国民投票の結果2020年1月31日をもって名目上EUから離脱したが、今年は移行準備期間で離脱に伴う諸交渉は現在も続いている)、もうかれこれ3、4年になる……。で、その間にメディアは多くの悪をもたらしてね。数多くの嘘、そしてフェイク・ニュースだのなんだのが……(苦笑)。
 かと思えば、アメリカにはトランプがいて、彼は……あいつを、北朝鮮の金正恩を挑発して煽るのに近いことをやってしまうような人物なわけでさ(苦笑)……。だから、そういった(ゴホンゴホンと咳払いしつつ)、とにかく(苦笑)総じて自分の感じる、世界の状況がどこに向かっているかについて抱く全般的な不安というのかな……。で、さっきも話したように、アルバムをまさに仕上げつつあった時点で、イギリスは全国的なコロナ・ロックダウンに入ったわけで(3月23日)。そうしたすべてに、どこかこう、このアルバムはなにかによって「書かれた」という感じがするね。

過去4、5年の間、あなたはそうした「恐怖の影」──いまおっしゃったようなことはもちろん、政治の変化や監視社会の影のなかで生き、それに常に脅かされていた、と?

RHK:ああ、そうなんだと思う。まあ、それは……おそらくそんなことを感じていたのは自分だけだったのかもしれないけれども……どうなんだろうね? たとえば、わたしはソーシャル・メディアの類いやインターネットは好きではない。ツィッター等々を見ると、本当に多くのヘイトに出くわすなと思うし、とにかく……いやだからさ、こうなる以前だったら、たぶん、不機嫌な男どもが2、3人バーにたむろして飲みながら不平を垂れる、程度のものだったんじゃないのかな?

(笑)ええ。

RHK:それがいまや、全世界もその不平を耳にすることができるようになった、というねぇ(苦笑)。とにかくまあ、わからないけれども?……人びとには実にぞっとさせられる、そんな感じがする。あらゆる類いのネガティヴさがネット/SNS上に存在しているから。

有毒なカルチャーがありますよね。

RHK:ああ。というか、カルチャーの欠如と言っていいくらいだ(苦笑)。

質問:野田努(2020年11月16日)

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