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interview with Laraaji

interview with Laraaji

太陽とピアノ

──ララージ、インタヴュー

文・質問:松山晋也    通訳:滑石蒼 Photo by Daniel Oduntan   Jul 16,2020 UP

太陽は、自然界のなかでも私がとくに好きな存在だ。自らのエネルギーを放出して、世界を明るく照らす。私はそんな太陽からインスピレーションをもらって、自分の芸術を表現している。活気とエネルギーがあって、光を分け与えられるようなものとしてね。このアルバムを『Sun Piano』というタイトルにしたのも、それが理由だ。


Laraaji
Sun Piano

All Saints/ビート

Ambient

beatink

伝承曲“シェナンドー"には何か特別な思い入れや想い出があるのでしょうか。

ララージ:これはアメリカン・フォークのなかでもとくにお気に入りの曲なんだ。そこから着想を得てグランドピアノで即興をするのも面白いかなと思ってね。実は、これまでも長いこと“シェナンドー"をベースにしていろいろと即興をしていたんだよ。それをたまたまこの新作に入れてみようかなという気になってね。今回は大きな教会のグランドピアノで演奏したから、反響で自分らしい音が聴こえるんだ。そういう、自己満足のようなものだね。一度やってみたかったっていう。大学で合唱の時にこの曲を歌ったり、アメリカに実際にあるシェナンドーという場所に行ったことがあったりと、いろんな思い出のある曲なんだよ。

長年ツィターを演奏してきたことは今作でのピアノ演奏にも何らかの影響を与えているはずだと思いますが、もしそうだとしたら、具体的にはどのような影響でしょうか。

ララージ:私がツィターを使いはじめたのは1974年だ。ツィターはむきだしのミニチュア・ピアノのようなものだが、ピアノではできないことができる。ハンマーを使って演奏することもできるし、ピアノよりもメロディーの幅が広がるんだ。だから、ツィターでの実験を通して発見したことを逆にピアノでできないかなと模索することなんかがあるし、そこからさらに新たな発見に出会うこともある。私がツィターと初めて出会ったのは、当時お金が必要で、ギターを売ろうと思って訪れた楽器の質屋だった。ブルックリンのね。でもお金に替えるかわりに、そこにあったツィターと交換してしまった。神に導かれるようだった。そんな出会からこの楽器をいじり始め、いろいろと面白い音を見つけ、それを人前で披露できるまでになった。きっと運命だろうね。

ヨーロッパ近代社会や思想と結びついた平均律(equal temperament)ピアノの音は、雲や虹のようなあなたの世界とは相容れないのでは……などと想像しがちですが、あなたのなかでは何の違和感もありませんでしたか。

ララージ:これまでずっとツィターで音楽的な実験を続けてきて、今回はそれを活かしたいと思ったんだ。長い間使ってきたツィターだから、これまでの経験を活かしてあげないとと思ってね。私にとっては、まずはそこが重要だった。ただ、今回のアルバムのようにピアノを使
うとなった時に、例えばピアノを違う周波数に調律して弾くのは違和感があるよね。たとえば純正律とか。そもそもピアノとツィターでは奏でられる旋律にも違いがあるし。純正な音程ではない平均律は、音色としてはいわゆる不協和音をはらんでいるが、一方でそれは、他楽器との調和に役立つ。つまりここでは、ツィターで培ってきた旋律の構成手法を活かすための平均律なんだ。

本作は3部作の第1弾であり、次作は『Moon Piano』だとすでにアナウンスされています。『Sun Piano』と『Moon Piano』の違いや関係について説明してください。

ララージ:『Sun Piano』は明るく、楽しく、燦然と輝く、アグレッシヴなリズムを奏でるアルバムだ。これから出る他の2枚に比べ、オープンなんだ。『Moon Piano』はより女性的で、柔らかく、内省的で、そして静か。この2作品に関しては、同じ即興セッションのなかから生まれた。使ったピアノも同じだが、感情の世界の別の面が表現されている。穏やかな面と、攻撃的な面とね。そして3枚目は『Through Illumines Eyes』というタイトルだ。そのアルバムでは、エレクトリック・ツィターとピアノを同時に演奏している。感情の面では、とても明るく、燦々と輝いており、まぶしいくらいだ。イメージとしては、グランドピアノとエレクトリック・ツィターの間だね。ピアノとツィターを、自分で同時に演奏しているから。私はピアノを両手で弾きながら、途中からピアノを伴奏にして右手でツィターを弾くこともできるし、ツィターのループをかけながらピアノを重ね
ることもできる。ドラマーみたいな感じだね。

あなたは常に時代の空気を意識してきたと以前語ってくれましたが、今回のソロ・ピアノ作品はいまの時代とどのように共振すると考えていますか。

ララージ:太陽は、自然界のなかでも私がとくに好きな存在だ。自らのエネルギーを放出して、世界を明るく照らす。私はそんな太陽からインスピレーションをもらって、自分の芸術を表現している。活気とエネルギーがあって、光を分け与えられるようなものとしてね。このアルバムを『Sun Piano』というタイトルにしたのも、それが理由だ。音楽を聴くことで、聴き手はそこに平穏を見つけられると思う。落ち着くことができる。それは、静かな曲だけではなくて、元気な曲にも言えることだと思っているんだ。いまの世のなかで起こっていることを考えて、不安で気持ちがざわざわしている時にでも、音楽を聴けば自分のなかにバランスを見つけることができる。今回の3部作を聴くことで、一旦落ち着いて、リラックスし、状況を客観的に観察し、そしてもう一度平穏を取り戻せるような感情の世界に自分を導いてくれれたらと思っている。

このアルバム制作を通し、ピアノという楽器に関して新たに発見したこと、気づいたことはありましたか。

ララージ:今回は教会で演奏したんだが、音の反響があるから、これまで聴こえていなかった音が聴こえた。ピアノの音の奥深さと、ハーモニーの広がりを感じたよ。グランドピアノ自身が奏でる豊かな音色が聴こえてきた。それから、ピアノの椅子が鳴らすキーキーという音にもリスペクトを払うようにしようと気づけた(笑)。ピアノに没頭しているときに鳴る音だからね。ジェフ・ジーグラーとのレコーディングがあったからこそ、これまで気づいていなかったピアノの音を発見できたというのもあるね。

INFORMATION

オフノオト
〈オンライン〉が増え、コロナ禍がその追い風となった今。人や物、電波などから距離を置いた〈オフ〉の環境で音を楽しむという価値を改めて考えるBeatinkの企画〈オフノオト〉がスタート。
写真家・津田直の写真や音楽ライター、識者による案内を交え、アンビエント、ニューエイジ、ポスト・クラシカル、ホーム・リスニング向けの新譜や旧譜をご紹介。
フリー冊子は全国のCD/レコード・ショップなどにて配布中。
原 摩利彦、agraph(牛尾憲輔)による選曲プレイリストも公開。
特設サイト:https://www.beatink.com/user_data/offnooto.php

文・質問:松山晋也(2020年7月16日)

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Profile

松山晋也/Shinya Matsuyama 松山晋也/Shinya Matsuyama
1958年鹿児島市生まれ。音楽評論家。著書『ピエール・バルーとサラヴァの時代』、『めかくしプレイ:Blind Jukebox』、編・共著『カン大全~永遠の未来派』、『プログレのパースペクティヴ』。その他、音楽関係のガイドブックやムック類多数。

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