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interview with jan and naomi

interview with jan and naomi

とてもとても静かな声とともに

──ヤン・アンド・ナオミ、インタヴュー

取材:柴崎祐二    Jun 20,2018 UP

勇気づけられたのはSTRUGGLE FOR PRIDE。音源ももちろん聴いてますが、やっぱりライヴですかね。

おふたりとも育ちは日本ですか?

n:俺はニュージーランドに90年代の5年間くらい住んでいたことがあります。

J-POPが日本から耳に入ってきて意識したりとかは?

n:当時はJ-POPを聴きたかったですけどインターネットもなかったから簡単に聴けなかった。憧れはありましたけど。

janさんは?

j:俺は幼少期から日本です。

では日本の音楽には10代のときから普通に触れていて。

j:それがあんまり……母が好きな洋楽が家ではよくかかっていましたね。ニルヴァーナとかPJハーヴェイとかその当時のリアルタイムなもの。

それでも滲み出てしまう日本の土着感というのがある意味魅力ということですかね。何かミーム的に受け継がれているものが無意識に入っているのかも知れないと……。ちょっと話を変えて、アルバムのタイトルについてですが、「Fracture」という単語には「骨折」とか「硬いものが玉砕する」とか、ちょっと物騒な意味であったり、または「複雑性」という意味もあるみたいですが。

j:辞書をひいて大体初めに出てくる意味は「骨折」ですね。

n:これは実際の経験談から来ているタイトルです。

骨折の経験ってこと?

n:そうなんです。このアルバムのジャケットの打ち合わせも兼ねてアートワークをやってくれたChim↑Pomたちと飲んだ日の帰りに、泥酔していて高円寺の住宅街で足を折ったんです。

野田:もう治ったの?

n:大体。まだボルトとか鉄板入ってるんですけど。

え、けっこうな骨折だ。

n:で、アルバム・タイトルをどうしようって考えていたときに、「骨折」って英語で何ていうんだろう、って調べて。単純に「broken bone」だと思っていたけど、「fracture」っていう言葉があると知って。しかも、janが過去に映画に出ていることがあって、そのタイトルもまた「fracture」で。あ、これタイトルに良いかもなって思ってすぐjanに相談しました。骨が折れる、硬いものが壊れる……破壊、と連想をしていくなかで、僕らがいま生きている2017年~2018年の渋谷を見ると、ビルがどんどん壊されて再開発されている。そこから、時代とも「fracture」というワードが共鳴しているかも知れないと思って、俺の肉体とこの街との繋がりもある、と。初めはそんなに意味を持たせるつもりもなかったんですけど、自然とそうなっていった。

仮にこの曲たちからひとつ言葉を抽出せよとなったとき、「fracture」ってすごくピッタリなワードだと思いました。

n:そうですよね。その気もなく歌詞書いていたら、破壊と再生というイメージが立ち上がってきたというか。終わりからまた物語がはじまるといったイメージ。

いきなり1曲目のタイトルが“THE END”という。ドアーズの同名曲はアルバムの最終曲でしたが、今作では幕開けの曲として置かれている。これにはなにかこうした意図があると思うのですが。

n:そう。曲順上これだけはこうした理由があって。アルバムを作るとなると、いままで作ってきたEPよりちゃんと曲順を考えなくてはならない。けれど、各曲歌詞も「これが最初で、これが次で、これがその次で」といったように時系列的に並べる感じではないし、どうやって決めようかなって思っていたんです。けどこのM1を“THE END”というタイトルにしたとき、ふと、映画も最後に“THE END”となって終わるけど、その映画の世界では明日もあるはずだ、と思って。終わりからはじまるなにかもあるはずだ、と思ったんです。

ネガティヴなモチーフ、終焉、破壊、そして罪の意識、喪失、諦念が散りばめられながら、そして一方で再生への希望も求めている……。実際に「神」という言葉も出てくるし、キリスト教的世界観を強く感じたんですが、それはやはり意識して?

j:とくに意識的というわけではないかもしれません。宗教ついても興味を持っていろいろ勉強もしたんですけど、教義そのものというよりキリスト教美術のあり方が好きで、そういう文献を読んでいたりするから、自然とそれが反映されているかもしれない。そういったなかで、人が何かにすがったり祈ったりするプロセスが凄く美しいなと思うことがあって。地獄から天国へ這い上がる願望だったり、人間の根本的な祈りの心性に魅了されることが多いです。

そういった祈りの賛美という感情がある一方で、諦めというか、すごく膿み疲れている感じというか……ある種の厭世的世界観とのバランスが興味深かったです。日本語訳詞を読んで「こんなダークなことを歌っていたのか」と驚きました。いま自身がそういうモードなのか、前々から本質的ににそういう傾向があるのか。

j:うーん。諦めがあって、しかし祈る気持ちが生まれて、けれどまた諦めて、みたいなエンドレスなループが常にあるかもしれないですね。

衝撃的だったのが「悪魔」というモチーフが頻出でした。しかもその誘惑に惹かれている自己というのが描かれている気がして。歌詞のなかにそういった表現を入れるというのは勇気あることだなと思いました。これは、自らの弱さを表明しているのか、それとも純粋に「悪」というものへ憧れがあるのか。

j:いや、憧れと言うより、悪魔も神もどちらも美しい、という視点で物事をみたいということの現れだと思います。「神も悪魔だし、同時に悪魔も神である」という思いでいます。

naomiさんもそういう世界の見方に対しては共感できる?

n:俺は直接的にはそこまで共感することはなくて……。俺の曲の場合は、あくまで物語というか、そこに作者たる俺の本心や主観的な感情が表れているっていうわけではないですけね。

そのときに物語を駆動させるものは?

n:例えばさっきも話に出た渋谷の再開発で見えてくる破壊と再生というもの……。僕らが制作に至るまで、そして歌詞が完成するまでの日々の歩みですね。それこそ、こうやってみなさんと知り合って話すなかで感じたこととか、友だちと飲んで骨折ったこととか、飲みすぎちゃったこととか、そういったことがベースにあるんでしょうね。

いまの時代これくらいダークな力がある歌詞って珍しいなという気がしました。アメリカン・ゴシックのような世界、例えばある時期のジョニー・キャッシュとか、デヴィッド・リンチとか……それを渋谷っていう風景にオーヴァーラップさせると、ここで描かれているような世界になるのかな、とも思いました。

j:どこにでも潜んでいる伝統的な悪のエネルギーみたいなもの、絶対に変わらない悪のようなものが少しでも輪郭化されて、認識することができれば、逆に恐れがなくなるんじゃないかな、って思うことがあって。無視することでは恐れは解消できないけど、認識することで怯えがなくなるのではないか、というような。

見ないことによって却って知らぬうちにその悪に取り込まれてしまうかも知れない、というね。怖いものをあえて見ることで強くなる、という感覚は分かる気がします。いまの「恐れ」ということで思い出しましたが、やはりこの音楽の、特異ともいうべき静かさについても伺いたいです。静かさって、リラックスもさせるけど時にすごく不安を喚起させもしますよね。子供の頃、周りが静か過ぎることで逆に泣き出してしまったりとか。

J:わかります。

「静か」というのは心地いいということだけではない、という意識があるのかなと思ったのですが。

j:naomiさんと一緒に音楽を作りはじめた時期、反骨精神のある音楽がすごく好きで。そのなかで何がいちばんパンクなのかって考えるときに、もちろん大きい音を出して真正面からぶつかっていくのもすごくカッコいいんだけど、東京の渋谷で、絶えず様々な音が無秩序に鳴っているところで、それを「フッ」と止めるというようなことがもっとも、パンクかな、と思ったんです。

なるほど。コデインとかロウとか、かつてスロウコアと呼ばれたバンドたちも、ポスト・ハードコア的文脈から出てきたということを思い起こさせる話ですね。わちゃわちゃしたものがレベル・ミュージックの主流だと思われがちなところに、カウンター加えてやろう、というような?

j:そうですね。

野田:では自分たちが勇気づけられた音楽ってなんですか?

n:STRUGGLE FOR PRIDE。音源ももちろん聴いてますが、やっぱりライヴですかね。

野田:いつ観たんですか?

n:「RAW LIFE」の頃に初めて観て。

それはどういう意味で勇気づけられたんでしょう?

n:「音楽をやろう!」って思ったんです。「俺もやりたい!」って。みんなが楽しそうにしていて。「RAW LIFE」とか「CHAOS PARK」とかで、大きな規模じゃなくても、自分たちで手作りの楽しい空間が作れるんだ、っていう気持ちを持った。僕らもいつも飲食店とかでライヴをするけど、店の人と俺たちとお客さんだけで勝手にやっている感じ。そういうのはあの時の経験に勇気づけられているかもしれないです。

janさんは?

j:具体的に「この出来事」というのはないんですけど、聖歌かな。いろんな音楽を聴いて、ああだこうだいろいろ考えはじめちゃうときに、ふとグレゴリオ聖歌のレコードをかけたりする。自分の心臓の鼓動だけ聞いて、それに正直にいれば良いんだという気持ちに戻れる。

僕は聖歌を聴いていると美しいなと思うと同時にちょっと空恐ろしくなってくることもあって……。

j:そういう風に感じるプロセス自体も一気にフッとなくなって、子宮のなかにいる胎児のような気持ちになる。完全に無意識に状態になれる。瞑想とは違うんですけど。普段の生活で人と話したことなどは、記憶としては蓄積されていくんだけど、その記憶のなかにだけに埋もれないようにする。その、埋もれないでいられるというこが喜び。

お話しているとふたりで本当にタイプが違いますね。

野田:そうだよねえ。SFP v.s.聖歌だもんね(笑)。

違いもあるけど、でも一緒に演っていると。

野田:むしろ違いがあるからこそ合うんじゃないですかね。

具体的な方向性は違えど、ふたりともエクストリームなものが好きってことは共通しているということですかね?

n:ハッとさせられるものが好き。

変にバランスを取ろうとしているものより振り切れたものが好き?

n:うん。

j:エクストリームなもの、例えばノイズとか聴いていても、俺は聖歌と同じ様に聞こえることもあったりしますね。

音楽以外にもいろいろファッションやアートにも興味があって実際にも繋がりがあると思うのですが、それらについてもやはりエクストリームなものが好きですか?

j:うん。

n:好きですね。

例えばさっきも話に出た渋谷の再開発で見えてくる破壊と再生というもの……。僕らが制作に至るまで、そして歌詞が完成するまでの日々の歩みですね。


jan and naomi
Fracture

cutting edge

Post-PunkEthereal

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野田:アートワークをChim↑Pomにお願いしようと思った理由は?

n:Chim↑Pomとは去年の夏に出会って、彼らのイベントに呼んでもらってライヴをやって。ジャケットは自分たちがやるよりも誰か外部の人に頼みたいなってずっと思っていて、誰か面白い人いないかなって考えていた時、年末に新宿で演ったライヴにまたChim↑Pomが観に来てくれて。ちょうどレコーディングも中盤に差し掛かっていて、そろそろアートワーク周りの話を本格的にしなきゃなってときに彼らに再会したから、その場のインスピレーションで「ジャケの制作とかやるんですか?」って訊いてみたら「いいよ」って言ってくれたので、お願いすることしたんです。

内容はChim↑Pomに一任って感じ?

n:そうですね。いくつか提案してもらって、その中から一つだけ選ばせてもらいました。

(ジャケットを見ながら)これって、琥珀ですかね……? 琥珀のなかに何かが入っている…?

j:いや、ドラム缶なんですよ、それ。

n:ドラム缶の中にエリイちゃんが入っているのを実際に上から撮ったらしいです。

え! そんなんだ。全然気づかなかったけど、そう言われてみるとたしかに人間が入っている。

j:ドラム缶に閉じ込められている女性っていうのが、寂れゆく都市、再生していく都市というこのアルバムの世界観に合っていると思います。

なにかの動物の受精卵のようなものかな、とも思いました。

n:そういう解釈もいいですよね。蓄光印刷にしてもらったので、これが暗闇で光るんですよ。それも受精卵とか、かぐや姫のような感じがあっていいなと思う。

野田:俺は繭のなかに人間がいる、と思ったんだよね。jan and naomiの音楽はどこかシェルターっぽいから、そのなかにいる女の子というふうな見方だった。まさかドラム缶だったとは。Chim↑PomとかSFPとか、渋谷の話とか、基本的にjan and naomiはアティチュードがパンクなんだね。

n:そうだと思います。だから、ジェイムス・ブレイクとボン・イヴェールに対して興味ないのも理解してくれました(笑)?

◎ツアー情報

【Fracture tour 2018】

2018年6月23日(土) 北海道・札幌PROVO
前売り:¥2,500 (税込・1Drink別)
PROVO電話予約:011-211-4821
メール予約:osso@provo.jp ※お名前・人数・連絡先をメールにてお送りください。
【問】PROVO 011-211-4821

2018年7月14日(土) 福岡・UNION SODA
前売り:¥2,500 (1Drink別)
チケットぴあ P-コード: 118-465
Live Pocket : https://t.livepocket.jp/e/4dw_4
メール予約 : info@herbay.co.jp ※お名前・人数・連絡先をメールにてお送りください。
【問】HERBAY 092-406-8466 / info@herbay.co.jp

2018年7月16日(月祝) 京都・UrBANGUILD
前売り:¥2,500 (1Drink別)
Urbanguild HP予約:http://www.urbanguild.net/ur_schedule/event/180716_fracturetour2018
ePlus:http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002262177P0030001
【問】Urbanguild 075-212-1125

2018年7月21日(土) 東京 ドイツ文化会館 OAGホール(6/9チケット発売)
前売り: 立ち見¥2,500・座席指定¥3,500 (1Drink別)
ePlus:http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002262177P0030003
【問】Slowhand Relation inc. 03-3496-2400


◎イベント出演

7/6 TOKYO CUTTING EDGE vol.02
@ liquidroom open/start 24:00
ticket now on sale
Line Up:長岡亮介 / jan and naomi / WONK DJ:SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO) / EYヨ(BOREDOMS) / DJ AYASHIGE(wrench)
http://cuttingedge-tokyo.jp/

取材:柴崎祐二(2018年6月20日)

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Profile

柴崎祐二/Yuji Shibasaki柴崎祐二/Yuji Shibasaki
1983年、埼玉県生まれ。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、これまでに、シャムキャッツ、森は生きている、トクマルシューゴ、OGRE YOU ASSHOLE、寺尾紗穂など多くのアーティストのA&Rディレクターを務める。現在は音楽を中心にフリーライターとしても活動中。

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