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interview with Shuichi Mabe

interview with Shuichi Mabe

さらばメタ、ようこそ王道

──真部脩一 (集団行動)、インタヴュー

取材・文:小林拓音    撮影:小原泰広   Feb 26,2018 UP

集団行動をやるうえでよく聴いているのはN.E.R.D.ですね。


集団行動 - 充分未来
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RockJ-Pop

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真部さんと組むヴォーカリストは女性が多いと思うのですが、真部さんの理想のヴォーカル像はどういうものでしょう?

真部:すごくフラットなヴォーカルというか、無味無臭に近いヴォーカルですね。背景づくりでコントロールできる幅が大きいヴォーカルというか、僕が楽曲制作で試行錯誤をするなかで、その方法論的なものに対する効果が目に見えやすいようなヴォーカルはやっていて楽しいです。『リアル・ブック』に載っているリードシート1枚で足りちゃうような音楽、つまりすごく削ぎ落とされた形の音楽に情感が乗ってくる瞬間が好きで。誰にでもできるところまで削ぎ落とされたもののなかに、その人じゃないと成り立たない要素がふと浮き上がってくる音楽がすごく好きなんですよ。

ちなみに、昨年はV6にも楽曲を提供されていましたよね。

真部:しました。そこまで聴いていただいてありがとうございます(笑)。

僕はけっこうジャニーズが好きなんですが、彼らって歌い方やコーラスが独特ですよね。これまで組んできた女性ヴォーカリストたちとはまたちょっと違う感触だったのではないでしょうか。

真部:そうですね。僕はディレクションにはぜんぜんタッチしていなくて、だからこそできた部分もあります。女性ヴォーカルに慣れてしまっていたので、すごく勉強になりました。ジャニーズさんはキャラクターがはっきりしているというか、ユニゾンで歌っているときもそれぞれの声質がわかるのがおもしろいなと思って。

あれはおもしろいですよね。

真部:僕はマイケル・ジャクソンがすごく好きなんですけど、彼は暑苦しくないペンタトニックを使うんですよ。涼しいというか(笑)。でもそれは、その5音以外の部分こそが勘所で、そのはっきりした音以外の部分をどうやって埋めるかというところが難しいんですね。ベンドの具合だったり、上からしゃくるか下からしゃくるかとか、ロング・トーンにしてもちょっと上がるか下がるかというところで大きく変わってくる。そこにキャラクターが反映されるわけですが、ジャニーズのとくにV6さんはそれがピカイチなんですよ。自分の音にしちゃう技術が本当に職業的に優れている。そこはびっくりしましたし、その後の自分のディレクションやプロデュースに反映されていると思いますね。そういう意味ですごく勉強になりました。

集団行動のヴォーカルの齋藤里菜さんとはオーディションの場でお会いしたそうですね。彼女のどういうところにピンときたのでしょう?

真部:齋藤はよくわからない大物感があるんですよ(笑)。彼女は《ミスiD》というオーディションにエントリーしていた女の子だったんですが、たまたまその《ミスiD》の主催側の方と知り合うきっかけがあって、オーディションに同席させていただいたことがあったんです。《ミスiD》って自分を発信することに意欲的な人たちが集まっているんですが、そのなかに明らかに馴染めていない人がいて。まったくクリエイションの匂いがしないというか。それも新鮮だったんですが、齋藤はわりと対応力もあったんですね。試しに歌ってもらったときに、さきほど話したようなペンタトニックの、正確な部分とその他のノイズになっちゃう部分とがはっきり分かれていて。合っている音は合って聴こえるんだけれども、合っていない部分がぜんぶノイズに聴こえちゃう。それがすごかったんです。

ノイズというのはつまり、歌や人の声ではないものとして聴こえるということですよね。

真部:そうです。表現がまるでないというか(笑)。それを見て、「本当にピュアなヴォーカリスト」みたいなものの成長過程に立ち会えるのではないかと思ったのと、あと齋藤は度胸があって一生懸命やってくれそうな人だったので、僕が理想とするフロントマン像に近かったんです。

なるほど。今回の『充分未来』で齋藤さんのいちばん良いところが出ている曲はどれですか?

真部:2曲目の“充分未来”ですね。今回目指した方向性のひとつに、自分からすごく遠いところにあるものに歩み寄ろうというのがあって、齋藤は僕と出会ったときにはCDを2枚しか持っていなかったんですよ。

それは、ストリーミングで聴いているということではなく?

真部:ということでもなく、ストリーミング・サイトすら知らないという状況で(笑)。「何持っているの?」と訊いたら「西内まりやとテイラー・スウィフト」って返ってきたんですよ。

すごい組み合わせですね(笑)。

真部:そうなんですよ(笑)。今回のアルバムの曲が出揃い始めたときも、“春”とか“オシャカ”とか、わりとJポップのクリシェに近いものを聴いて「真部さん、やっと私の知ってる感じの曲が!」って(笑)。自分としては、今回の収録曲のなかで“充分未来”がいちばん既聴感が強いというか、「なんでいままでこれを書いていなかったんだろう」というくらい手癖に近い曲なんですよ。そういう自分の楽曲に、CDを2枚しか持っていなかった人がフィットしているのがおもしろくて。だから“充分未来”は僕と齋藤の共同作業をいちばん感じる曲でしたね。あと、齋藤がヴォーカリストとしての自意識みたいなものを獲得していく過程がいちばんいい形で表れているのが“フロンティア”ですね。齋藤は経歴が特殊で、キャリアのスタートからずっと抑圧されていたというか、「そういうの止めろ」ばかり言われてきたヴォーカリストなんです(笑)。だからすごく自意識を獲得するのが難しい環境にいるんですよ。でもヴォーカリストと自意識って切っても切り離せないものなので。

なるほど。それで“充分未来”がアルバム・タイトルになっているんですね。

真部:そうです。前作(『集団行動』)に関しては自分の作風にフィットしないものを楽しむというか、ちょっとした違和感みたいなものを残したまま作品として仕上げるという部分があったんですが、今回は“充分未来”のように自分らしさがはっきり出ている曲と、“オシャカ”のようなクリシェの曲が並んでいるアルバムにしたいと思って。なので既聴感みたいなものを基準に選曲していきました。どこかで聴いたことのある感じってポップスの条件だと思うんです。自分の作風に対する既聴感と、Jポップ一般に対する既聴感と、その両方が感じられるようなアルバムになるといいなと思ったんですね。

共同作業って一緒にやる人を好きになっていく過程なんです。

今回の新作は全体的に、前作よりも音楽的な幅が広がったように感じました。たとえばさきほど話に出た“フロンティア”にはラテンの要素が入っていますよね。

真部:それに関しては、たんに僕に時間ができたというか(笑)。メンバーが増えたおかげで、プレイヤーとして複数パートを弾くことから解放されて、アレンジの自由度が高まったんです。前作のときは、とにかくバンド感を打ち出そうとするあまりギター・ロックに終始してしまいましたけど、自然とバンド感が出てくるようになったので、今回はもっと幅広くやってみてもいいかなと思ったんです。

これは西浦(謙助)さんに尋ねたほうがいいのかもしれませんが、5曲目の“絶対零度”のドラムにはちょっとドラムン的なブレイクビーツが入っています。

真部:そのアイデア自体はファーストのときからあったんですが、正直言って僕はこういう生ドラムのブレイクビーツがあまり好きじゃないんですよね(笑)。デモを一度ブレイクビーツで組んでから「これはリアレンジしなきゃな」とずっと思っていたんですけど、サポート・メンバーが入った状況でやってみたら意外と行けたというか。時間が経ったことで自分の曲が自分の手から離れたような感じですね。僕自身の好き嫌いとはべつにアンサンブルが成り立った曲です。

今回のアルバムの制作中によく聴いていたものはありますか?

真部:集団行動をやるうえでよく聴いているのはN.E.R.D.ですね。プロデューサーだった人たちがバンドをやってみました、というところにシンパシーを感じるんです。

最近復活して新作を出しましたよね。そのアルバムですか? それともファースト?

真部:ファーストとセカンドですね。僕は学生時代にティンバランドとネプチューンズがど真ん中だった世代なんで、そういう自分の好きなものだと整合性を取りやすいというか、憧れを形にしやすいというか。

そのあとはカニエ・ウェスト一色みたいになりましたよね。

真部:カニエはべつの意味でもショックでしたね。僕はずっとプリンスが好きなんですけど、ロック・スターってちょっと殿上人のようなところがありますよね。プリンスにしてもデヴィッド・ボウイにしても、手の届かないところにいるというか。むかし鮎川誠さんが「レイ・チャールズなんて雲の上の人で、ロックなんて自分にはおこがましいと思っていたけど、ビートルズが出てきたときに先輩の兄ちゃんが自分の憧れの音楽をいとも簡単にやっている感じがして、それが自分もやる動機になった」と言っていたんですが、カニエが出てきたときも、そういう大学の先輩みたいな人がめちゃめちゃクールなことをやっているって感じたんですよ(笑)。「自分たちの世代のロック・スターだ!」と思ったんです(笑)。

たしかにどんどん登り詰めていきましたね。

真部:登り詰めて、いまはちょっと大変なことになっていますけど(笑)。

いまや音楽活動以外のことでしょっちゅう物議を醸していますからね(笑)。

真部:もう大統領選出てくれって話ですよ(笑)。

そういうロック・スターへの憧れみたいなものは、集団行動をやるうえでも出していきたい?

真部:そうですね。そのチャンスがあるならやりたいなとは思います。ただそれを「ロック・スター」という既存のフォーマットに当てはめるのではなくて、自分の作風だったり得意分野だったりを駆使して近づけないかなとは思いますね。

ものすごくコントロールしたいのに自分がコントロールして出てきたものに対してはストレートに良いと思えないという。

Vampilliaでは戸川純さんとも一緒に活動されていますが、ヴォーカリストとしての彼女についてはどう見ていますか?

真部:僕からしてみるとお師匠というか。僕はただのいちファンなんですよ。中学生のときに『Dadada ism』を聴いていたので、Vampilliaで一緒にいること自体違和感があるというか(笑)。こういうことを言うと戸川さんは嫌がるんですけど、本当に天才なんです。

もし仮に集団行動で戸川さんをヴォーカリストとして立てなければならないとしたら、どうします?

真部:はははは。戸川さんは日本の音楽の作詞のフォーマットを刷新した人でもあるので、その影響からは完全に逃れられないというか、やっぱり呑み込まれちゃうだろうなとは思います。でも、Vampilliaのときも最初はそんなふうに「戸川さんのペースのなかでしかできないだろうな」と思っていたんですが、蓋を開けてみたらそれとはぜんぜん違う次元の、思わぬ友情みたいなところからスタートしたんですよね(笑)。まず戸川さんと仲良くなるという(笑)。同じバンに乗って移動して、仲間みたいな感じでしたね。だから戸川さんとまた何かをやることになったら、同じようにまず友だちとしての仲を深めるところからですね(笑)。でも、共同作業ってそういうことだと思うんですよ。共同作業って一緒にやる人を好きになっていく過程なんです。だからそれは戸川さんに限らず、いまのメンバーに対してもそういった意識でやっているつもりです。

ではそろそろ最後の質問です。集団行動として新たにバンドを始めてみたうえで、「バンドでしかできないこと」ってなんだと思いますか?

真部:僕はそもそもひとりでものを完結させられないというか、そもそも締め切りがないと曲が書けないタイプなんです(笑)。だから締め切りを作ってくれる人が必要なんですね。あと僕は、自分という素材だけで煮詰めたものにはあんまり興味がないんですよ。だからそれを薄めてくれる誰かがほしいというか。でもそれと同時に、性格的にはすごくコントロール・フリークなので、矛盾もあって。ものすごくコントロールしたいのに自分がコントロールして出てきたものに対してはストレートに良いと思えないという。その折り合いをつけるために協力してくれる人がどうしても必要なんですよね。

自分では思いもつかない、予想外のものが入ってきてほしいと。

真部:入ってきてほしいですね。ものを作っている人は絶対にそうだと思うんですけど、自分の好き嫌いみたいなものがひっくり返される瞬間っていちばん感動すると思うんですよ。そうして自分の好き嫌いを超えたところで良いものに出会えることこそ幸せというか、それはクリエイターとしてはすごく純粋な部分だなと思いますね。じつは僕は作曲を始めたのが20歳を超えてからで、音楽を始めるのが遅かったんです。だから、それまでの自分が音楽を作ることを必要としていなかったという引け目があって、なるべくアーティスティックに振る舞わないようにしているというか、できるだけアーティスト性みたいなものから遠ざかることを考えてやってきたんですが、10年もやっているとそれがどうしようもなく滲み出てきてしまうし、凝り固まってしまうし、そこから逃れられなくなってしまう。それを中和してくれるのはやっぱりべつの人というか、自分に協力的に関わってくれる人なんだなということを改めて認識しましたね。

まだメンバーも最終型ではないですし、これからもそういう出会いを求めているということですね。

真部:お見合い大会みたいになっても困りますけどね(笑)。


集団行動の単独公演「充分未来ツアー」

2018年3月16日(金)大阪Music Club JANUS
OPEN 18:45 / START 19:30
チケット:¥3,500(D代別)
[お問い合わせ] 清水音泉:06-6357-3666

2018年3月22日(木)渋谷WWW X
OPEN 18:45 / START 19:30
チケット:¥3,500(D代別))
[お問い合わせ] HOT STUFF PROMOTION:03-5720-9999

IMAIKE GO NOW 2018

2018年3月24日(土)&25日(日)
※集団行動の出演日は3月24日(土)になります。
OPEN 13:00 / START 13:30(会場による)
前売り:1日券¥5,000(税込) / 2日通し券¥8,000(税込)
当日:¥5,500(税込)
ドリンク代:各日別途¥500必要
OFFICIAL HP:imaikegonow.com
[お問い合わせ] JAILHOUSE:052-936-6041 / www.jailhouse.jp

取材・文:小林拓音(2018年2月26日)

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