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Interviews

interview with Shonen Yoshida

interview with Shonen Yoshida

日々の桃源郷

──吉田省念、書簡インタヴュー

取材:松村正人    Oct 16,2017 UP


吉田省念 - 桃源郷
Pヴァイン

PopIndie Rock

Amazon Tower HMV

「省念さんにとって桃源郷とはなんですか」と書きかけてやめた。メールインタヴューでそんなことを訊くのは照れくさいし、理想にせよ状況にせよ、抽象化をともなう問いは対話において感傷的な回答を結果しやすく、ヤボなテレビのドキュメンタリー番組みたいになっちゃいそうじゃないですか。ある作品に通底するものはそれを耳にする私たちの目の前にあり、吉田省念の音楽はそれを隠そうともしない。おおらかなものがゆったりながれていく。フォークやブルース、ロックさえすでにルーツのいちぶである世代の、先達の音楽をたっぷりとりこみ血となり肉となったものを気負うことなく提示する音楽。クラウス・ディンガーと協働した経験のあるエンジニア尾之内和之とつくりあげたサウンドは前作『黄金の館』よりもナマの響きをいかし、伊藤大地、谷健人、千葉広樹、四家卯大、Yatchiら、おなじみのメンバーとの演奏は視線をかわしあう趣がある。色彩はおちついたが滲むものは倍加し、「苔」や「富士」や「お茶」といった記号とあいまって和的な情緒を感じさせるが、エキゾチシズムの和というよりそれは日々の暮らしの傍らにあるものをさすかのようである。つまるところ桃源郷とは――いや、よそう。以下をお読みいだければそれがなにかただちにおわかりいただける。それ以上に音を聴けばたちどころに腑におちる、そのような形容がまことにしっくりくるアルバムをつくりあげた吉田省念のことばを京都からお届けします。

でもほんとうは、桃源郷はユートピア的思考とは逆に“日常のすぐそばの物事が捉え方次第で変化することを楽しめる世界”だという考え方に興味を持ってアルバム・タイトルにしました。

『黄金の館』のリリースから1年とすこし、『桃源郷』にとりかかったきっかけを教えてください。前作リリース後、継続的に曲づくりされていたのでしょうか?

吉田:きっかけは、年にワンタイトルを目標に決めていたので、前作のリリース後すぐにそういうテンションにはなっていました。『黄金の館』でエンジニア尾之内和之さんとのスタジオワークを試行錯誤できたのもあり、レコーディング作業は前回よりもスムーズでした。アレンジでは京都のバンド・メンバーと定期的にライヴやプリプロを行えたことが完成に早く導いてくれました。曲は日々ふと思いつきます。断片を集めてそれを繋ぎ合わせたりすることもあれば、歌詞も曲も同時でできることもあります。

『黄金の館』では曲をつくるなかで構想ができあがっていったとおっしゃっていましたが、『桃源郷』の場合はいかがでしょう? 前作より全体の構想が先行したようにも思いますが。

吉田:今回も『黄金の館』とおなじく、全体の構想は並べてみてはじめて見えてきました。構想とはいえないかもしれませんが、アルバムの全体で収録する曲にヴァラエティをもたせることは目標にしていました。

『桃源郷』の“雨男”は『黄金の館』の“晴れ男”に対応しています。“晴れ男”はこの曲に客演した細野さんが晴れ男を自称したことからできたとおっしゃっていましたが、“雨男”はどのようななりたちだったんですか?

吉田:歌詞は『桃源郷』にもゲスト参加していただいている四家卯大さんと3月に東北ツアーに行ったときにできました。出て来たイメージが雨だったので“晴れ男”の対として“雨男”にしました。カエターノ・ヴェローゾのライヴに行ったこと、マテオだったり感銘を受けた音楽にある“ムード”みたいなものが存在する曲になればと思っていました。

“茶の味”のゆったりした歌い回しはアコースティックなサウンドとあいまってとても味わい深いです。とくに「花の季節はほころびて〜」のあたりですね、歌手=吉田省念の進化を感じさせる曲だと思いましたが、本作で「歌を歌うこと」についての考えた方に変化はありましたか。

吉田:“茶の味”は自分も気に入っている曲なのでうれしいです、ありがとうございます。歌うことについては、ぼくは毎月、京都の拾得で開催している〈黄金の館〉というマンスリーライヴを主催しているのですが、そこにお招きしている歌い手の方々を間近で観ているのがためになります。生の演奏で等身大の歌を聴くと、声や歌い方は曲に引き出される面白みがあると感じられますし、歌詞に親近感を抱くとその世界観に自然に寄り添えるようにもなれると思うんですね。

『黄金の館』では多くの要素をいかに解放的に聴かせるかが音づくりのテーマだったと前回のインタヴューでは話した憶えがあります。『桃源郷』にもむろん、省念さんのリスナー体験が色濃く反映していますが、(引用の面では)『黄金の館』に較べると引き算的な印象を受けました。本作の曲づくりの面での狙いを教えてください。また模範にしたとはいわないまでも念頭にあった他者の作品があればネタバレしない程度に教えてください。

吉田:まずは自分たちが聴いて心地よいということを大前提に、ギターと歌をきわだたせようと思って作りました。サウンドで意識したものは、たとえばウィルコやベックのバンドサウンドのなかでのアコギの音でしょうか。それとフィル・スペクターのベスト盤とか。

伊藤大地さん、谷健人さんはじめ、前作を引き継いだ布陣で制作されています。前作での細野さん、柳原陽一郎さんのような客演を招かなかった理由はありますか。

吉田:まさか自分の作品に細野さん、柳原さんのような大先輩をお招きできるとは思ってもいなかったことですし。ただただ、後押ししていただいたことに感謝の気持ちしかないです。前作で参加していただいたことを自信に繋げて、今作はできるだけ少人数で制作したかったんですね。

『黄金の館』に較べ、『桃源郷』は中央に集まった音づくりを想定しているように聴きましたが、尾之内和之さんとはどのような作品にしたいと話し合われましたか。

吉田:さきほどもうしあげたとおり、自分たちが心地良い音という前提で進めつつ、尾之内さんのマイブームもあったんでしょうね。ミックスにかかるまではモノラルで作業を進めていたことも今回の音づくりに影響していると思います。仕上がってみると、前作よりも音にリアリティを求めていたんだと思います。尾之内さんとは、音づくりの方向性を具体的に話したことはそんなになくて、感覚的に察知してそのときどきで判断して進めました。それが彼と作業していく上での楽しみでもあります。

いまはソウルや、ソウル的なニュアンスの音楽が注目を集めているかもしれませんが、ぼくはどんなジャンルの音楽をやっているかということよりも音自体の深さみたいなものに興味が向かいます。

前作をふまえると、『桃源郷』は“霊魂の涙”から「桃源郷」までをA面、“Stupid Dancer”から“カサナリアッテクオト”がB面とすると、A面に和的な印象の曲(おもに文字面のことではありますが)を集めた理由はなんですか。

吉田:構想があとづけだったのはさきほどもうしあげましたが、曲順も直感で決めたんですね。曲の並びを決めるうえで和と洋の対比は意識しなかったですが、けっこう気に入っています。和的なイメージはおそらく「桃源郷」というタイトルに由来すると思うんですが、ぼくはこの言葉に勝手にエキゾチックなイメージを抱いていていました。でもほんとうは、桃源郷はユートピア的思考とは逆に“日常のすぐそばの物事が捉え方次第で変化することを楽しめる世界”だという考え方に興味を持ってアルバム・タイトルにしました。

歌詞に出てくる「霊魂」や「お茶」「富士の山」などの単語も意図的ではない?

吉田:人間模様を題材に歌詞を書くことがなかなかできなくて、景色や情景からイメージを膨らます場合が多いです。たとえば、1曲目の「霊魂の涙」だったらつげ義春の「海辺の叙景」、「桃源郷」は歌川広重の「東海道五十三次」――リズムを重視して歌詞を考えれば考えるほど難しくなっていきますね。それもあって、意味なくわいてきたイメージの言葉や、気になる言葉もできるだけメモするようにはしています。歌詞はむずかしいですよね。日常で話して面白い話題や経験したこと、日々感じることをそのまま歌にできればいいのですが、まだまだ修行中です(笑)。

苔とさざれ石の組み合わせはいやおうなくあの有名な曲を想起させますよね。「さざれ石も転って」(ローリング・ストーンですね)の一節も印象的です。

吉田:これも作詞するさい、景色や情景を思い浮かべることが多いことの影響だと思います。苔もさざれ石も時間の経過が感じさせる日本独特の美意識ですし、それが存在する景観は美しいですよね。あと、自宅スタジオのあたりは山間で苔も多くて、環境的にもそいうったものに普遍性を感じやすいと思います。

“Stupid Dancer”はアルバムのなかでは異色な曲だと思いました。省念流ソウルといってもいいかもしれませんが、省念さんにとってソウルやR&Bはどのようなものですか。

吉田:ソウルやR&Bは60年代70年代の時代を追っていくうちに自然に入ってきているジャンルだろうと思います。“Stupid Dancer”はアコギのラフとドラムをベーシックにつくりました。“霊魂の涙”も“雨男”もそうですが、『桃源郷』では曲の原型をつくるうえで伊藤大地くんとの演奏が骨になっています。とりあえず2〜3テイク、彼に初見で叩いてもらってその後に一気に曲のイメージを膨らませていくやり方が多かったです。そういった方法をとったのは、大地くんのビートが気持ちいいのがまずもってあるんですが、瞬間的に曲を把握してくれて、溶けた鉄を鋳型に嵌めこんでいくように作業が進んでいく気持ちよさがあったのが大きいかもしれない。『桃源郷』で伊藤大地くんの存在は大きいです。彼と作業しているとモチベーションがさがらない。とくに“Stupid Dancer”はアレンジ先行型というよりも、ビートから全体が派生した結果仕上がった曲といえます。いまはソウルや、ソウル的なニュアンスの音楽が注目を集めているかもしれませんが、ぼくはどんなジャンルの音楽をやっているかということよりも音自体の深さみたいなものに興味が向かいます。

“月と太陽”でカスタネットが鳴っているからといって反射的に大瀧さんを想起されても困るでしょうが、いまこの瞬間、いまこの瞬間、細野さんと大瀧さんの曲で好きなのを1曲あげてみてください。

吉田:(笑)ともに提供曲ですが、細野さんは“ラムはお好き?”(吉田美奈子、1976年の『フラッパー』に収録)、大瀧さんは“三ツ矢サイダー”のCM提供曲がマイブームです。

ギタリストとしては前作よりも抑制的なプレイにこだわっていると思わせる反面、“カサナリアッテクオト”のスライドなど印象にのこる箇所も少なくないです。プレイヤーとして、今作ではどのような面に留意されましたか。

吉田:“カサナリアッテクオト”ではペダル・スティールがハマるだろうなと思ったんですが、そもそもペダル・スティールが手元になくて(笑)、ギターでそれっぽくやってみようと思ったんですね。演奏については、たとえばギターなら、「らしく」弾こうとすると行き詰まってしまいがちなんですが、他の楽器の奏法や音を意識することで打開策がみえてくることはあると思いますよ。

『黄金の館』から『桃源郷』にいたるあいだに省念さんの生活でもっとも変わったことはなんですか?

吉田:来年引越しをするのもあって、その準備に意識が向かっていたと思います。新しい生活空間で発生する次作も楽しみです。

吉川然さんのアルバムジャケットの写真もすばらしいです。たんにノスタルジックとはいえない記憶を問題にしているようです。

吉田:彼のことは行きつけの美容院の方に紹介していただきました。HPのアルバムを拝観して一気に引き込まれました。記憶を呼び起こすなにかと瞬間に凝縮したキラメキ、エネルギーに魅了されてタイトルもまだ決まっていない段階でしたが、制作に参加してほしいととお誘いしました。

“霊魂の涙”の歌詞の「記憶の深い海」の情景を起こさせます。ところで省念さんは幼年期の記憶でいまでも夢にみる光景ってありますか?

吉田:幼年期の記憶は何気なく話しているときに出てくることが多いですね。事故とか、怪我したこととか非日常的な現実の記憶だったり。ある年の冬に車で家族旅行をしたとき、緩やかな下り坂で路面が凍結していてスリップして回転しながら停まっていた車にぶつかったことがあるんです。そのときカーステでかかっていたのが、テープが伸びたビートルズの“デイ・トリッパー”なんですよ。だからあの曲を聴くたびにそのときのことを思い出します(笑)。あと、ライヴでトラブったり、スッポかしたりする悪夢もたまにみてうなされます(笑)。

ライヴといえば、前回の取材時27回目だった〈黄金の館〉もHPを拝見したところ44回目を数えるまでになっていました。今後の活動について教えてください。

吉田:〈黄金の館〉を継続していくことで自分の生活の一部になったのがとてもうれしいです。そこでしか体感できない時間が過ごせることにしあわせを感じています。ゲストの方とのかかわりにも毎回発見があるのも前向きにイベントができている証拠だと思っています。〈黄金の館〉は年内、11月、12月は、『桃源郷』にも参加してもらったメンバーをふくむ吉田省念バンド(谷健人、Yatchi、 渡辺知之)のワンマンです。来年も春ごろまではゲストが決まっていて、1月は友部正人さんです。(了)

取材:松村正人(2017年10月16日)

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