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interview with Arca

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夏休み特別企画:アルカ、ロング・ロング・インタヴュー(2)

取材:坂本麻里子    質問作成:木津毅+野田努 photo by Daniel Shea   Aug 07,2017 UP

« 痛み&&&電子&&音響──アルカ、ロング・インタヴュー(1)

 というわけで、アルカのロング・ロング・インタヴューの続編です。長いです。濃いです。ゆっくり時間をかけて読んで下さいね。読み終えたときには、なにか違った景色が見えているでしょう。

僕は……文化的にも、セクシュアリティの面においても、そしてエモーションという意味でも、どこにも属していなかった。どうしてかと言えば、僕の生まれ落ちた家族のなかでは、感情面での暴力がたくさん起きていてね。僕はそんな状況を生きてきたし、だからじつに多くの……悲しみを感じる理由が、自分の人生のなかにはあったんだよ。


Arca - Arca
XL Recordings/ビート

ExperimentalElectronic

Amazon Tower HMV

このアルバムのメランコリーは、あくまでも、あなたの個人的な経験から来るものなのでしょうか? それとももっとより大きなもの、社会や歴史も関わっていると思いますか?

アルカ:んん〜、そうだな。その両方だろうと思うけれど、おそらく、より僕自身のパーソナルな経験から来たものなんだろうね。というのも、さっきも話したように、ああいう育ち方をしたせいで多くの面で「自分はどこにも属さない」みたいに感じてきたし、僕は……文化的にも、セクシュアリティの面においても、そしてエモーションという意味でも、どこにも属していなかった。どうしてかと言えば、僕の生まれ落ちた家族のなかでは、感情面での暴力がたくさん起きていてね。僕はそんな状況を生きてきたし、だからじつに多くの……悲しみを感じる理由が、自分の人生のなかにはあったんだよ。で、それというのはどんなに年齢を重ねても、どれだけ賢くなっても関係ないもので。あるいはどんなにそれを克服しようと努力しても、僕のなかに存在する悲しみというのは、けっして去ってくれやしないものなんだ、そう自分でも悟ってね。いや、悲しみを追い払おうとトライしたことはあったんだよ。セラピーにも通ったし、そこで自分の抱えている問題を話し合ったりもしたしね。悲しみを除去しようと本当にたくさんのことを試してみたんだけど、こうして以前よりも歳をとったことで、いまの自分は「これは僕という人間を形成する一部なんだ」と理解するようになった。だから、いまはそれが自分にも美しいと思えるし、実際のところ、僕がクリエイトしようとしている美の源泉にもなっているんだよ。というわけで、僕が言わんとしたのは……内面にある苦痛や悲しみ、あるいはメランコリーを消去することではないんだよね。そうではなくて、それは、たぶん……「調べ」のようなものなんじゃないかな? 
 ミュージシャンになったつもりで想像してもらえば分かるだろうけど、あれはだから、つねに鳴っている音符や調べのようなもの、なんだよ。ということは、ひとは自分の人生を和音にしようとすることが可能なのかもしれないね? つねに鳴っているその音符と共振する、調和のとれたハーモニーを持つコードへと……。

なるほど。

アルカ:だから、まったく場違いなコードを鳴らそうとしたり、あるいはその空間にそんな音符は鳴っていない、というフリをしてごまかそうとする代わりにね。そうした音符に合わせて自らを配置することは可能だし、そうすることで、それは人生にある美の、その一部にだってなりうるんだよ。

先ほどあなたはご家族の中にエモーショナルな暴力が多かった、と話していましたよね。で、お若い頃にそうした体験を受けたとき、もちろん悲しみも感じたでしょうが、と同時にその暴力に対して怒りも感じたんじゃないでしょうか?

アルカ:その通り。うん、それは、すごく感じた。

ところが、このアルバムからあまり「怒り」は感じないんですよね。むしろ、情感に満ちているし、かつ、ある種のスピリチュアルな穏やかさがある作品だな、と感じます。

アルカ:うん……。

それは、どうしてなんだろう? とも思ったのですが。

アルカ:思うに、それは……僕の友だちに、怒りや悲しみを感じないように努力している、そういうひとたちがいてね。でも、僕は自分自身の経験をもとに彼らにこう言ったことがあるんだ。「その両方の感情を抱いたって構わない、それでいいんだよ」、と。それぞれにとって必要なだけ、そうした感情は続くものだからね。

ええ。

アルカ:で、そうした感情は、こういう順番で起きるものじゃないかと思う。まず、最初に訪れるのは悲しみ。で、続いて怒りが湧いてくる、と。一生を悲しみのなかに留まって過ごすひともいれば、怒りのなかで一生を過ごすひともいる。また、そのどちらも乗り越えていけるひとだっているんだよ。そういうひとはたぶん彼らの身の上に起きた体験と和解することができて、だからこそ、そうした感情に潜っていくことができたんだろうね。けれども、やっぱりそのふたつの感情の両方を経験する必要があるんだよ。というのも、悲しみというのはきっと……そんなことが自分に起きたことを自分自身気の毒に思う気持ち、「しかたない、自分のせいだ」みたいに感じる、というのから来ているんだと思う。
 で、怒りはその反対で、「そうじゃない、自分がこんな目に遭うのは間違いだ」という想いだし、そんな出来事が自分の身の上に起こったことに対して怒っている、という。だからある意味、そのひとはそうやって壁のようなものを作っているんだよ。怒りというのは、そのひとが自身とその出来事との間に壁を築いて、その内側でそのひとが自らを立て直そうとするプロセスに必要なパーツみたいなものだから。でも最終的には、その壁を打ち壊さなくてはいけない。そうしないと、その人は怒りに飲み込まれてしまうからね。
 だから、本当にわだかまりを解消したいのなら、そのひとは自らの内側に目を落とす必要があるんだと思う。そうやって自分のなかにある悲しみを見つけ出して、悲しみと目を合わせてしっかり向き合い、仲良しにならなくちゃいけない。それが済んだところで、今度は外に目を向ける、「何が起きたか」を見つめることができるようになる。で、その出来事を正面から見据え、それに対して怒りを感じ、「ノー。これは間違いだ」と言えるようになる。そうやってやっと、ひとはそのひと自身、そして願わくは……そんな出来事が起きたシチュエーションそのものも許すことができるようになるんだよ。
 まあ、これはナイーヴな考え方なのかもしれないよね。というのも、ひとによっては彼らの人生の状況がとても困難なものであって、それをやるのがとても難しい、ということもあるだろうし。だから、誰もがつねにそういうプロセスを自らに強いる必要がある、とまでは思っていなくて。それがあるから、僕が人びとに対して言うのはただ、「自分にはこれを感じる必要があると思える、そのフィーリングのなかに必要なだけ留まっていればいいんだ」ということで。ただし、「そのフィーリングから逃げちゃダメだよ」と。そこから逃げ出してしまうと、そのひとはその段階に永遠に留まり続けることになってしまうと思うし。それになかには、悲しく感じることすら自らに禁じてしまう人もいるだろうし、彼らもやっぱり、そこで足止めを食らってしまう。でも、(悲しみなり怒りを)真正面から目を見て見据えて、その何が君を不快に感じさせるのかを探り当てようとし、と同時に自分を落ち着かせようと努力する限り……そこにじゅうぶんな時間を費やせば、たぶん、いずれ傷を癒すことはできるんじゃないかな。もちろん、この考え方があらゆるシチュエーションに当てはまる、とまでは言わないよ。ただ、僕たちにはそれをやるだけの強さがあるし。僕たちは人間であって、だからみんな欠点を持っている。けれど……ああ、だからなんだよね、さっきのたとえ話を自分が出したのは。光を期待して待つこと、希望を持つってこと。人生のなかにその希望があれば、「自分は生きている」という事実をもっとありがたく感じやすくなる、という。

セクシュアリティはあなたにとって重要なテーマですが、あなたにとって音楽とセクシュアリティはどのように関連づけられるのでしょうか。

アルカ:そうだね、仮に、僕たちの持つ様々な側面はいろんなチャンネルだと考えてみてほしい。で、僕にとってセクシュアリティというのは……とてもダイレクトな回線なんだ。だから、僕たちのなかにある動物性と直でつながったラインという。

はい。

アルカ:僕の生まれた国、ヴェネズエラというのは非常に保守的でね。そのせいで、性の面でゲイであること、トランスジェンダーであること、あるいはクィアであることを、とても恥だと感じやすいんだよ。で、若かったころの自分の感じた様々な恥の感覚に対する、いまの大人としての自分の反応の仕方というのは……それはだから「恥を隠す」の正反対、というか。むしろ逆に、自らのセクシュアリティを祝福し、「これはべつに恥に思うようなことでもなんでもないんだ」って風に人びとと対決する、という。で、そうすることにはある種の無垢さがあるし、その点に僕がこうして立ち向かっていることは……さっきも話したように、それは強さでもあるんだよね。だから、おそらく僕は、「恥」というものを……ブルーから赤に変えることができたんだろうね(笑)。

なるほど。

アルカ:僕は……僕たちが自らを動物であると認識することで、人間はその内部にスピリチュアリティを育てることができると、そう思っていて。というのも、規律だったり、何かを恥として禁じることだったり……あるいは罪の意識を通じて得られる類いのスピリチュアリティというのは、非常に限定されたものだと思うから。でも、「自分は肉の塊で、血肉からできている」、「自分には抑えられない衝動がある」という点を認めることで達するスピリチュアリティというのは……僕からすれば、そうやって自分たちがエロティックな動物であり、官能的な存在であることを認めたときに、ひとはさらに高いレベルのスピリチュアリティに達することができるんじゃないか? と。もちろん、これは僕の個人的な意見に過ぎないよ。ただ、これまでの自分の人生のなかで、この意見にはいくらかの真実が含まれているな、そう信じられるような出来事があったのは事実であって。たとえば、僕が……ものすごく強度の不安発作に襲われた時期を過ごしていたとき、あたかも自分の頭、脳や精神が、自分の肉体から切り離されてしまったように感じたんだ。不安発作やパニック発作を経験したことのあるひとなら誰でも、それと同じようなことを言うはずだよ。「マインドと身体が分離してしまった」みたいな。

はい。

アルカ:で……僕にとって、セクシュアリティ、そしてエロティシズムというのは官能性のとるひとつの形なんだ。ここで言っている官能性(sensuality)というのは、僕たちの持つ触覚に……味覚、そして視覚に聴覚、といった意味合いのこと、なんだけどね。僕たちの体内に備わっている、世界を五感で理解するためのテクノロジー、というか。だから、意識的に理解するだけではなく、感覚や直観を通じて世界を感じること、という。で、セクシュアリティというのは、それを伴うものだと思う……セクシュアリティには直接性、あるいは動物性が備わっているわけだからね。で、それというのは、僕には祝福するのが恐くない事柄だし、あるいは……自分のやりたいこと、ひとりのアーティストとして「これは世界に思い起こさせるに値する」と自分が信じていること、その重要な部分のひとつなんだ。だからそうだね、それは僕が自分の作品のなかに含めるのを実際にとてもエンジョイしながらやっている、そういうものでもあって。
というのも、僕にとって、それが自分の不安発作を止めるためのやり方だったんだよ。そうやって自分自身の肉体に回帰する、というのがね。だから、あらゆる類いの不安、恥の意識、そして悲しみが僕の身体から養分を吸い取っていたように感じるし……だからこそ「自分たちには肉体が備わっているし、自分たちにはセクシュアリティもあるんだ」ってことを思い出させてくれる、そういった事柄を前面に押し出し、擁護するのは大事なんだ。自分の頭と身体とを切り離すことなく、肉の欲求を「恥」だと思わないようにすることは、僕たちが僕たち自身とより良い関係を持つための、その推進力になりうるからね。

なるほど。だからなのかもしれないですね、あなたの作る音楽が「はらわたに響く」というのか、奇妙な肉体性を伴ったものであるのは。滑らかにツルツルに磨かれた、そういう綺麗な音楽ではないですし、もっと剥き出しで生々しい、という。

アルカ:なるほど……。

もちろん、とんでもなく美しく聞こえる瞬間もあります。が、と同時に非常にノイジー、かつ不協和音に満ちてもいて。だからあなたの音楽を聴くのは、わたしにとってはとてもこう、感覚にじかに訴える体験なんだと思います。

アルカ:……んー……ひとつ、訊いてもいいかな?

ええ、どうぞ。

アルカ:きみは、僕のプレス関係を仕切っている人と、直接に連絡をとれたりする? だから、この取材を設定するために、彼らとじかに交渉したのかな?

いや、そこまではやってないです。この取材は、日本のレーベルを通じてアレンジしてもらいました。〈XL〉作品を日本で扱っている、ビートインクさん経由で。

アルカ:なるほどね。いや、ただ……こうして取材を通じて、きみが僕の音楽について言ってくれることを聞いているうちに、僕には分かった気がするっていうのかな。きみはとても深く僕の音楽に耳を傾けてくれている、と。そうしたきみの言葉を聞いていて、僕自身ある意味圧倒されるし、かつ、嬉しく感じもするんだよ。「ああ、この人は僕が音楽にこめた様々なディテールを味わってくれているんだな」と。

はぁ……(予想外のリアクションに驚いている)。

アルカ:ほんと、取材を中断させてしまってごめんね。

いやあ……そんな風に言っていただけて、こちらとしても光栄です(汗)。あなたの作品は敬愛していますし。

アルカ:でも、きみの言ったような言葉を使うひとって、ほんと、珍しいんだよ。うん、ほんと、興味深いな。というのも、僕はこれまでにたくさんインタヴューを受けてきたし、相手はアメリカ人ジャーナリストにドイツ人ジャーナリスト、イギリス人にスペイン/ラテン・アメリカンなど、という具合でいろんなひとたちと話してきたから。で、まあ、きみも同じように考えるかどうかは分からないけど……思うに、どこかに……何かがあるんじゃないかな? だから、日本の人びとの音楽の聴き方は世界の他の地域のそれとはかなり違う、という。そう思わない?

ああ、それは同意です。

アルカ:だから、彼らはたんに音符を追ってその調べに耳を傾けるだけではなく、それらが存在する空間、音を取り囲む空間や、音の建っている「建築」そのものも聴いているんじゃないか、と。たぶん、だからだと思うよ。日本でジャズやインスト音楽の人気がとても高いのは。要するに、音楽そのものの周囲に存在するフォルム、そして形状といったものも、日本では吟味されているんだろうね。

ええ。

アルカ:だから、いやまあ、きみが僕の音楽を形容してくれるその言い方を聞いていて、僕も何かに気づかされた、そう言いたかっただけなんだけどね。だから、それを聞いていて僕も非常に嬉しいなと思ったし、かつ、コンポーザーとして驚かされた、みたいな。ほんと、それだけなんだ。

わー、そう言っていただけて、こちらも感動です……。

取材:坂本麻里子(2017年8月07日)

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Profile

坂本麻里子/Mariko Sakamoto
音楽ライター。『ROCKIN'ON』誌での執筆他。ロンドン在住。

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