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interview with Juana Molina

interview with Juana Molina

料理はふわふわをそのままに

──フアナ・モリーナ、インタヴュー

質問・文:デンシノオト    通訳:大坪純子   Apr 28,2017 UP

音楽を作るとき私にとってその音楽はふわふわ浮いていて、浮遊しているみたいなもので。それで、その浮遊している音たちは、自分にとってすごくパーフェクトなもの。でも歌詞をつけることで、その浮遊して夢のあるものが、すごく現実的になってしまう気がして。その夢が壊れてしまうんじゃないかって怖くなっちゃう。


Juana Molina - Halo
Crammed Discs/ホステス

PopExperimental

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テキサスでの録音が本作に与えた影響は?

JM:歌詞のアイデアはもらったかもしれないけど、音楽的には変わってないと思う。私が街にいようが砂漠にいようがどこにいようが、音楽は自分のうちにあるものだから変わらないのよね。でも歌詞は、見たものを言葉にしたときにそれがいい言葉だったらそのまま歌詞になったりするから、場所は影響すると思う。

今回、コンゴトロニクスVS ロッカーズで出会ったディアフーフ(!)のギタリスト、ジョン・ディートリックさんが参加されています。彼とのコラボレーションは、この作品に、どのような効果をもたらしましたか?

JM:彼は私が考えもしないようなギター・フレーズを入れてくれるの。最初に聴くと「何これ! こんなギター・フレーズ聴いたことないわ」って衝撃を受けるんだけど、いつしかそれ無しでは生きていけないみたいになって(笑)。彼とのコラボレーションはコラボレーションのあるべき姿だと思う。だって彼は私が絶対に思いつかないようなことをやってくれるから。私のアイデアとかけ離れたことをやってくれるから逆にそれがいい形でハマっているんだと思う。彼は本当にアイデアをたくさん生み出す人で、次から次へと出てくるから止めなきゃいけないくらいなの(笑)。すごく親しみやすい人だし、大好きだわ!

ライヴでおなじみのシュヴァルツ・オーディン・ウリエルさん(キーボード、ヴォーカル、ギター、ベース)、ディエゴ・ロペス・デ・アルコートさん(ドラムス)も参加されていますね。彼らの演奏はこのアルバムにどういった色彩を与えてくれたとお考えですか?

JM:正直に言うと、あまり色彩は与えてないと思う。というのも私は自分の音楽になると、自分の世界が広がってしまうから。だから私と音楽をやるのはすごく難しいと思う。でも彼らはミュージシャンとしては大好きよ。ディエゴが叩いてくれたドラムがレコーディングに採用されたんだけど、だからといってそれがアルバムの何かを変えたかというとそうではない。ただ、本当に良いドラムだったからそれを使った感じなの。

今回もエドワルド・ベルガージョさんがミックスを手掛けられていますね。今回のアルバムでも重要人物ではないかと思うのですが、彼の仕事が本作に与えた影響を教えてください。

JM:これもさっきと同じで「影響」っていうと、答えるのが難しいかもしれない。彼とは何度も何度もミックスのやり取りをするの。彼はいつもたくさんディレイやリヴァーブをつけて戻してくるんだけど、私はそれがすごく嫌で。あと彼はすごくパンチの効いた音にしたがるんだけど、それも私は嫌で。でも彼は私のやりたいこととか、私がどういうミックスを求めているのかとかはちゃんとわかってはくれているのよね。私はある程度自分でミックスしたものを彼に渡すから、まっさらなミックスをするんじゃなくて、私がミックスしたものが基盤になる。それでも彼なりに挑戦してくるときもあって、それが採用されることもときどきあるのよ。例えば“Lentísimo halo”では、私のミックスに比べて、彼はギターのヴォリュームを3倍くらい上げたの。最初はびっくりしたんだけど、どんどんそれが良く感じてきて。それで曲のムードがとても良くなったの。あれをやった彼は正しかったわ。

フアナさんのリリックは日本人である私には意味はわからないながら、とても心地よい響きを感じます。フアナさんにとって「言葉」とはどういった意味を持っていますか?

JM:「言葉」とは音楽をもっと生かすものだと思う。地に足をつけてくれるものだと思う。だから私はいつもアルバム制作の最後の方に歌詞を書くのよ。私にとって歌詞を書くことはとても難しいことなの。説明が難しいけど、音楽を作るとき私にとってその音楽はふわふわ浮いていて、浮遊しているみたいなもので。それで、その浮遊している音たちは、自分にとってすごくパーフェクトなもの。でも歌詞をつけることで、その浮遊して夢のあるものが、すごく現実的になってしまう気がして。その夢が壊れてしまうんじゃないかって怖くなっちゃう。だからあまり歌詞って好きじゃないのよね。だから少しでもそれを崩さないように、オリジナル・メロディの音にきちんと合う言葉を選んでいるの。私にとって大事なことは歌詞がメロディに溶け込むということ。だから言葉選びに関してはすごく厳しいわ。

過去に日本人音楽家とも共演されていますが、現在、気になる日本人音楽家はいますか?

JM:いまは誰もいない。その理由が最近すごく怠け者になってしまって、ぜんぜん新しい音楽を探さなくなってしまったの。だからこういう質問をされると申し訳なくなる、答えがなくて。正直なことを言うと、ここ2年くらい、自分自身が音楽に圧倒されちゃって、音楽をあまり聴かなくなっちゃったの。友達で音楽ライターの人がいるんだけど、いつも彼が私にいろんな新しい音楽を勧めてくれていたんだけど、最近彼にも会ってないから私に音楽を教えてくれる人もいなくて(笑)。

余談ですが日本のマンガ『NARUTO -ナルト-』のファンということですが、気になっている日本のマンガやアニメーションなどはありますか?

JM:宮崎駿の大ファンよ。みんな彼の大ファンだとは思うけど。彼の作品は本当に美しくて、感動的で、完璧で、でもどことなくシンプルで。何気ないところにすごく動かされるのよね。例えば『崖の上のポニョ』で、ポニョが笑顔で水面を駆け抜けるシーンとか、ああいう場面を想像できるってある意味すごくクレイジーだと思うんだけど、本当に美しくて心動かされるわ。本当に彼は世界が誇る天才だと思う。最初にアメリカ版を観てから日本版を見てみると、ディープさとダークさがより際立つのよね。アメリカ版だと削除されているシーンも多くて。だから日本のオリジナル版を観ると、強烈さと感動が増すのよね。

オリジナル・アルバムのラスト曲である“Al oeste”は、メロディ、ギターの演奏など、シンプルにして、とても美しい曲に思いました。

JM:この曲は驚くかもしれないけど、前作よりも前に書いていた曲なの。サウンドチェックのときに書いたのよ。このアルバムの多くの曲はサウンドチェックで書いたの。この曲は、何かが足りなくて、だから前作には収録されなかった。それで、今回のアルバムを制作していて、スタジオの準備をしているときに誰かが、この曲のデモを流したの。そこにジョンもいたんだけど、彼が特に気に入って、「こんな曲あったのか! すごく美しい! アルバムに入れるべきだ!」って言ってくれて。私にとってはちょっと間抜けな感じの曲だったから、みんなが気に入ってくれたことにびっくりしたわ。すごくシンプルな曲だったから。でもみんなのリアクションを見て、私もこの曲に対する気持ちが変わったの。人のリアクションってやっぱり影響すると思う。特に「悪い」とね。センシティヴ(神経質)すぎかもしれないけど、リアクションで自分の気持ちすら変わってしまうこともある。この曲に関してはベンにありがとうって言わなきゃいけないと思う。彼がこの曲を引っ張りだしてきてくれなければ、私の判断では絶対にこの曲はアルバムには収録されなかったと思う。

いつもアートワークが独特ですね、今回は目と骨のイメージです。何を意味するのでしょうか?

JM:これは誰もわからないわ(笑)。私はいつもアレハンドロにアートワークをお願いするんだけど、じつはこれになる前に、もうひとつアートワークができていたの。でもそれが過去にもやったことのあるようなアートワークで、なんかしっくりこなくて。そしたら、アレハンドロが「じゃあ、ちょっとそこに立って、目の写真を撮らせて」って言って、突然私の写真を撮り始めたの。自分のiPhoneで。私が「え! 何? 何をするつもりなの?」って聞いても、「いいから! とにかく写真を撮らせて!」って言ってきたの。それで彼が目の写真を撮った。もう一度同じ写真を撮り直してみたんだけど、その目にはならなくて、結局彼のiPhoneで撮影した目写真が使われることになったの。彼が何をするのかまったく想像できなかったんだけど、結果、想像を絶する素晴らしいイメージができ上がったと思う。最初に見たときは、あまりの奇妙さに本当に大爆笑したわ(笑)。とても奇妙だし、不気味だし、でもなんか目が離せなくなっちゃって(笑)。知り合いに見せても、すごく酷いリアクションをされたりして(笑)。でも思ったのが、何もリアクションがないより、それがネガティヴなリアクションでも、記憶に残るくらいインパクトがあるものの方がいいなぁって。それとタイトルにも合うことに気づいて。タイトルの『ヘイロー』は、昔郊外に存在していた神話なの。白く蓄光する光が地面から浮いていて、みんなそれを恐れていた。何か悪いことが起きてしまうんじゃないかって。その光は、人の後をついていったり、脅かしたりして、人びとにいろんな違う側面を見せるから、人びとはその光の行動をオラクルとして捉えていたの。その白く蓄光している光は、動物の死骸の骨からその光を放つようになったの。だから偶然にもアートワークにも骨があって、『ヘイロー』と合うって感じたの。

なるほど。話が少し前後しますが、アルバム名を『ヘイロー』とした理由を教えてください。

JM:どうして『ヘイロー』にしたかというと、タイトルを何にしていいか、まったくわからなかった。それでアルバム全体の歌詞を見直して、アルバムに合う言葉がないか探したの。そしたら“Lentísimo”っていう曲に「Halo」っていう言葉があって、なんかピンときて。だからその曲のタイトルも“Lentísimo halo”に変えたのね。さっきも言ったけど、もともとコンセプトはないところからスタートするんだけど、結果、パズルのようにすべて引っ付き始める。ひとつの行動でいろいろと変わるのに、結果、いろいろつながるのはアートのマジックだって感じるわ。

音楽も含めて、最近、もっとも感動したことは?

JM:何かあるとは思うけど、なんかいまは頭が真っ白で思いつかないわ(笑)。インタヴューが終わった瞬間に100万個くらい浮かびそう(笑)。

最後に、今後のご予定などを教えてください。

JM:アルバムが5月に出てからは、アルゼンチンで4公演ライヴをする予定なの。その後はヨーロッパでツアーをしつつ、ソナー・ミュージック・フェスティヴァルにも出る予定よ。まだ長いツアーではなくて、短いツアーからスタートする感じ。本格的な長いツアーは秋以降かな。そのときには日本も行きたいと思っているわ。東京と京都に行きたいわ。

質問・文:デンシノオト(2017年4月28日)

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Post-it (デンシノオト)
1971年生まれ。ブロガー。東京在住で音楽ブログ「デンシノオト」などを書いています。
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