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interview with Ásgeir

interview with Ásgeir

切なくも温かいアイスランドの歌

──アウスゲイル、インタヴュー

取材・文:木津毅    Apr 26,2017 UP

コンセプトやテーマはとくになかったんだ。強いて言うならば……自分探し、かな。一生懸命自分を見つけようとする僕がそこにいるんだ。


Ásgeir - Afterglow
One Little Indian/ホステス

PopR&BElectronic

Amazon Tower HMV iTunes

 ジョン・グラントがアメリカから逃げ出し、放浪ののちアイスランドに移住したのはやはり傷心のせいなのだろうか。孤独な人間は北国に向かわずにいられないのだろうか……。グラントはその歌詞から偏屈な皮肉屋に違いないと思っていたら、しかし、実際に会ってみれば何てことのない気さくな中年だった。だが、たくさんの問題を抱えていた彼を再生させたのはアイスランドという土地そのものだったのではないか、とも思う。
 そのジョン・グラントが英語詞を提供したことでも話題となったアイスランド生まれのシンガーソングライター、アウスゲイルの朴訥でまっすぐなフォーク・ミュージックを聴いていると、わたしたちがアイスランドに抱きがちな、厳格で豊かな自然に囲まれた国というある種のステレオタイプさえも大らかに受け止められるように感じられてしまう。ビョークとシガー・ロスのような特例に限らず、アイスランドは何かしらの形で音楽に携わる人間の割合が高いことで知られているが、そのなかでもとくに辺鄙な土地で育ったというアウスゲイルもまた北国の大自然と向き合いつつ、すくすくと音楽で育ったことが鳴らす音と歌によく表れている。

 以下のインタヴューは、2016年夏に〈ホステス・クラブ・オールナイター〉のためにアウスゲイルが来日した際におこなったものだ。その時点では制作中だったセカンド・アルバムからは5曲のマスタリング前の音源を聴くことができ、すでにサウンド面での新たな展開も予見することができたが、完成音源は遥かに音響的に洗練された仕上がりとなった。
 インターナショナル盤としてはセカンド・フルとなる『アフターグロウ』は、全世界的に流行中のオルタナティヴなR&B解釈と、シンセ・ポップ、あるいはよりエレクトロニック・ミュージックの意匠を取りこむことによってサウンド面での大胆な更新に取り組んだ作品だ。ジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールのような、モダンなシンガーソングライターたちに続かんとする意志が感じられる。ソングライティングの骨格自体はフォークを大きく外れることはないが、ピッチシフトやノイズの挿入、凝ったエフェクトも多用されており、ファーストにおける北欧フォークトロニカの印象を大きく覆すアウスゲイル流オルタナR&B“アンバウンド”、ミニマル・テクノ的なトラックが展開する“アイ・ノウ・ユー・ノウ”などははっきりと新基軸だと言える。『イン・ザ・サイレンス』はポテンシャルを秘めた若いミュージシャンの習作といった向きもあったが、『アフターグロウ』は現時点での彼の最新の成果を衒いなく報告してくれる。それでいてアウスゲイルが多くのひとに親しまれる所以となった、透明感のある歌声やあくまでも穏やかで温かみのあるメロディを惜しむことも隠すことも一切ない。
 この北国からやってきた青年とその歌には、曲がっているところがまるでないのだ。

アイスランドから来られたら、日本の夏はさぞおつらいと思うんですけど――。

アウスゲイル:(ため息をついて)ああ。

(笑)こんな風にツアーで海外を回っていると、アイスランドが恋しくなるのではないですか?

アウスゲイル:うーん、アイスランドはもちろんいい国だと思うんだけど、このツアーの前はブレイクを取ってずっと地元にいたからそろそろ外に行きたいとは思ってたんだよ。でも、ここまで暑いとあっという間に疲れちゃって困るね。でも、いまは日本にいて、見るものがたくさんあるから楽しいよ。

それが救いですね。今日はアイスランドのお話を訊きたいなと思っていて。というのは、アウスゲイルの音楽って、日本にいるわたしたちにも「アイスランドらしさ」みたいなものが伝わってくるものだと思うんですよ。ただ、アウスゲイルの音楽にはアイスランド以外の音楽への関心や興味もすごく織り込まれていますよね。あなた自身は、アイスランドの風土による影響と、外国の音楽の影響とどちらのほうが大きいと思いますか?

アウスゲイル:その融合だと思うね。自分では意識しているわけではないから、正直自分でははっきりとはわからないけれど、でも両方あるのは間違いないね。

アイスランドの音楽に共通する要素として自然そのものを表現するサウンドがあるよね。僕の音楽にもそういう要素があると思う。でもそれは、敢えて出そうとして出しているものではないんだよ。

アイスランドらしさというところで言うと、シガー・ロスから影響をすごく受けたとお聞きしていますが、そこには自然の厳しさに対する敬意みたいなものが表現されていると思うんです。シガー・ロスからはどのような影響が大きいですか?

アウスゲイル:たしかに自然に対しての考え方での彼らからの影響はあるんだろうなあ。僕の場合も、曲によってそういうテーマが出ている気がするね。とくに、アイスランドの自然の厳しさだね。その厳しさはアイスランドの自然の個性なんだよ。これは国外からよく指摘されることなんだけれど、アイスランドの音楽に共通する要素として自然そのものを表現するサウンドがあるよね。僕の音楽にもそういう要素があると思う。でもそれは、敢えて出そうとして出しているものではないんだよ。

あともうひとつ、僕がアウスゲイルの音楽に対して思うのは、生活と音楽がすごく近い感じがするんですよね。たとえば日本だと、何かあるとすぐ音楽みたいなことにあまりならないんですけど、アイスランドではひとが集まったらすぐ音楽が鳴っているようなイメージがあって。

アウスゲイル:ああ、そうだね。ほかの多くの国とは違って、楽器をやるひとがとにかく多いんだよ。僕も海外を回って知ったんだけど。学校でも音楽の授業があるし、みんなどこかの段階で楽器に触れるんだよ。30万人ぐらいしかいない国ってことを考えるとバンドの数は相当だし、しかもその多くが海外で成功してる。これはすごいことだな、と。僕の家族も、僕の姉もバイオリンをやっていて、母親もオルガンを弾いたりクワイアをやったり、父親がアコーディオンをやっていたり……僕はギターとドラムをやってるし、兄は何でも演奏する。だからうちには早くから楽器で溢れていたし、僕も6、7歳でギターに触れて、両親はどんどんやれって言ってくれたしね。クラシックから入って、しだいにそれはやりたいものではなくなったから19歳ぐらいで転向したけど、それがいい基礎にはなっていると思う。たしかにアイスランドにはそういう傾向があるね。

漠然としたイメージですけど、ホームパーティなんかで何人か集まったら演奏しようぜ、っていう感じというか。

アウスゲイル:ああ(笑)。僕はすごく小さい町で育ったんだけど、子どもの頃から音楽好きの仲間っていうのは何人かいて。そいつらと放課後、誰かの家のガラージで音出してってことをしょっちゅうやってた。ただ、家族ではそんなにやっていなくて……母親がクラシックのひとだったんで、譜面を読んできちんとっていうのに対して、僕はインプロで作っていくのが好きだったからね。父親もやっぱり譜面派だったから、うちのなかでいっしょに演奏するということはあまりなくて。兄がたまに実家に帰ってくるとギターを教えてくれたり、それぐらいかなあ。

なるほど。でも、お友だちとガレージで演奏するっていうのもすごく素敵ですよね。

アウスゲイル:たしかに(東京のように)こんなに大都会だと難しいだろうね。僕の場合は、4つか5つそんな場所が確保してあって、いつでも演奏していい、そんな感じだったよ(笑)。

羨ましいですねー。では、日本限定リリースの7インチ・シングル「ホェア・イズ・マイ・マインド?」の話なのですが(『アフターグロウ』国内盤のボーナス・トラックとして収録)。これまでライヴでニルヴァーナの曲をカヴァーしていたこともありましたが、今回はピクシーズのカヴァーですよね。あなたの音楽からするとちょっと意外な気もするんですけど、そもそも1990年前後のアメリカのオルタナティヴ・ロックからの影響ってけっこう大きいんでしょうか?

アウスゲイル:ああ、確実にそうだね。ものにもよるけど、幼いときは当時の音楽が好きだったよ。ニルヴァーナは、彼らを通じてああいう音楽を知ったというのが大きいね。ピクシーズのカヴァーに関しては、カヴァーをやることは決めてたんだけど、何をやるかってなったときにレコードをひっくり返してたら彼らのアルバムが出てきて、すぐにイメージが浮かんだんだ。その通りにピアノのパートを弾いてみたらいい感じに行けそうで、そのままトントン拍子で全体像が見えてきて、あっという間に完成したよ。で、いい感じのカヴァーができたから、7インチを出してみようとなったんだ。

なるほど。ただ、そのピクシーズの“ホェア・イズ・マイ・マインド?”もサウンドはロックではなくて、たとえばジェイムス・ブレイクみたいな実験的なR&Bに近いものになっています。そういったいまのR&Bやヒップホップも、サウンド・プロダクションの面で意識されているんでしょう。

アウスゲイル:ああ。そこは自分でもすごく意識してたと思う。今回はヴォーカルにオートチューンをはじめて使ったし、ビートもすごくルーズに、R&B風にした。ドラムの音の数も少ないし、ピアノもレイドバックしていて、あとはベースとギターが少しだけ。すごくスロウだし、スペースを生かしたんだ。こういうサウンドだと、ミックスしたときに分かるんだけどすべての音がちゃんと聞こえるんだよね。それだけがあればよくて、そういうシンプルなサウンドだと手拍子ひとつでもリヴァーブを効かせればバッと広がりが出るんだ。その広がりが出ればよくて、ミックスのときにトラックが50もあったらゴチャゴチャして何も聞こえなくなっちゃうから、それだけは避けたかった。この曲に関しては、全体像が見えた上でスタジオに入れたから時間もかからなかったしね。思った通りの仕上がりだったからすごく嬉しかったよ。

そういったサウンド面での挑戦が、完成目前だというセカンド・アルバムにも繋がっていくと思うんですが――

アウスゲイル:いや、じつはそうとも言えなくて。たとえば7インチのもう1曲の“トラスト”なんかはR&Bテイストとは全然違うし、アルバムも曲によってサウンドはバラバラになっているよね。そういう意味ではアルバムの参考になる7インチだと思う。

アルバムのテーマやモチーフは見えていたんですか?

アウスゲイル:コンセプトやテーマはとくになかったんだ。強いて言うならば……自分探し、かな。一生懸命自分を見つけようとする僕がそこにいるんだ。使っている「絵の具」自体は前回と同じだと思う。つまり、アコースティックとエレクトロニックなんだけど。そしてメロディに焦点を絞っていて、とりわけ進歩的なことをしようとしているわけではないんだ。とくに曲作りに関しては感覚的には前作から続いている。ただ、できた曲に施したサウンドは前作よりもドラマティックになっている部分はあるかな。

いまの時点ではアルバムから5曲聴かせていただいたんですが、まさにいまおっしゃたように、アコースティックとエレクトロニックのサウンドでの融合をさらに洗練されていますよね。なかでもダンス・ミュージックの要素が入っているのは新基軸かなと思ったのですが、もともとダンス・ミュージックを好んでお聴きになっていたんですか?

アウスゲイル:いいや(笑)。

(笑)ただ、“アイ・ノウ・ユー・ノウ”なんかは、ダンス・ミュージック的ですよね。

アウスゲイル:どうやって作ったんだっけ……思い出してみるよ。……そう、自分で作ったサンプル・ヴォイスから広がっていった曲なんだ。前半はゆったりと、どちらかと言えばオーガニックに盛り上がっていく曲なんだけれど、中盤で別の曲かっていうぐらいの展開になる。でもじつはコード進行は同じなんだ。そのまま違うチャプターに進化していく構成になってるんだ。そのせいもあって曲の色合いがかなり変わっていくから、かなりクレイジーな感触を受けるかもしれないね。で、最初に使ったサンプル・ヴォイスを最終的にはシンセサイザーにかけて、それで違う響きを作って、違う次元に持っていったっていうのかな。オーガニックな感触の、変わったダンス・チューンに仕上がったと思うよ。

なるほど、すごくよくわかりました。では時間なので最後の質問なのですが、アウスゲイルの音楽には悲しさや切なさがありながらも、最終的にはホープフルな感覚が満ちていくように感じられます。ご自身では、どうしてそのようなムードになるのだと思われますか?

アウスゲイル:うん、昔から感じてきたインスピレーションから来るものなんだと思う。17歳くらいから僕はずっと曲を書き続けているんだけど、ずっと同じ書き方をしているんだ。なぜと訊かれて正確に答えるのは難しいけれど、いまはこれが僕の曲作りのスタイルなんだと思うし、自分が心地いいと思うやり方に純粋に従っているんだよ。僕という人間の一部分が音楽を通じてたしかに出てきているんだ。

取材・文:木津毅(2017年4月26日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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