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■Plastic Sex / The End
Cornelius Constellations Of Music ワーナーミュージック・ジャパン |
北沢:でもこういうニュー・ウェイヴっぽい曲をやると、小山田くんはすごくハマるね。次はプラスティックセックス。これって中西俊夫さんのユニットなんだね?
小山田:まぁ、中西さんのソロ的な感じなのかな。
北沢:小山田くんはメンバーなの?
小山田:ぜんぜんメンバーじゃないですけど、これだけやったのがけっこう古いんですよ。
北沢:2005年に結成だもんね。
小山田:それ以外はここ4、5年くらいのものなんだけど、これはけっこう前で。たぶん中西さんがロンドンから帰ってきてわりとすぐくらいの頃だったんじゃないかな。
北沢:まだ佐久間正英さんが健在だった頃だもんね。
小山田:そうだね。ただ、そのあとにプラスチックスを再結成したりするんだけど、それよりは前で。その頃、ちょっとプラスチックス的なことをやりたくて中西さんがやってたプロジェクトなんじゃないかな。まだニュー・ウェイヴがリヴァイヴァルする前くらいだと思う。
北沢:ファンキーなニュー・ウェイヴっていう感じだね。小山田くんは何をやったの?
小山田:僕はアレンジ、プロデュース的な感じです。
北沢:これはゴティエのあとに置くしかないっていうか、置き場が他にないっていうか(笑)。
小山田:まぁ、ニュー・ウェイヴという意味では元祖ニュー・ウェイヴだよね。
北沢:トーキング・ヘッズと同列に並んで遜色ないものね。こうしてあらためて聴くと、中西さんのヴォーカルってすごいよね。日本人離れしてるっていうか。
小山田:すごいですよね。男性でああいうヴォーカルって、ホントにいない。
すごいですよね。男性でああいうヴォーカルって、ホントにいない。
北沢:引きつった感じでハイテンション。立花ハジメさんのヴォーカルもちょっと他にないニュアンスがあるなって思うけど、中西さんは完全に外国人っぽいね。
小山田:ノリも外国人っぽいしね。
北沢:けっこう気は合うの?(→『プラスチックスの上昇と下降、そしてメロンの理力・中西俊夫自伝』によれば、プラスチックセックスはもともとは中西氏が小山田くんとなにか一緒にやりたいと思ってはじめた、〈メジャー・フォース〉の相方・工藤昌之氏のように自分と正反対のタイプだからすぐにうまくいった、と)
小山田:合うっていうか、似てるってことじゃないですけど、僕はすごく好きです。
北沢:プラスチックスは日本のバンドのなかでは当時から好きだったの?
小山田:当時はね、そんなに聴いてなかったです。でも、すごい好きです。本当に日本人離れしてますね。本当にカッコいいセンスのいいバンドだなと。〈ラフ・トレード〉からシングルを出してるし。本当に日本のシーンとかを飛び越えてあの時代にインディで向こうで活動してた感じは、YMOよりも自分たちに近かったというか、オルタナ寄りっていうか。
北沢:プラスチックスの海外展開は仕込みなしの自然な流れだからね。
■サカナクション / Music(Cornelius Remix)
で、次がサカナクション。普通のJポップのリスナーにとってはこれがメインって感じに聞こえるんだろうけど、しかもこの“ミュージック”ってサカナクションの代表曲だよね。これはどういう企画だったの?
小山田:これはシングルのカップリング的なことだったのかな。
北沢:「さよならエモーション/蓮の花」のカップリングだね。
小山田:うん。普通に頼まれて。
北沢:サカナクションは聴いてたの?
小山田:僕はそんなに熱心に聴いてたってことはないんだけど、子どもが小学校6年生くらいのときにけっこう好きで、なんか家で聴いたりしているのは知ってて。もちろん存在も知っていたけど、ちゃんとCDを聴いたことはなくて、Youtubeとかで聴いたことがあった。
北沢:4つ打ちのダンス・ロック。それを小山田くんがどう料理するのかなっていう興味だったんだけど、イントロからしてアコギを使った完璧なコーネリアス調に差し替えられていて、踊らせるよりも、歌詞をじっくり聴かせるアレンジかなと。
なんかわりとダンスっぽくなってるんだけど、根幹にあるものはフォーク的なものなのかなと思って、それをまったくの逆にしてみたいなって。
小山田:この曲はうちの子どもが好きで、よく部屋から流れてて。聴いたら僕もけっこう好きで。ただ、なんかわりとダンスっぽくなってるんだけど、根幹にあるものはフォーク的なものなのかなと思って、それをまったくの逆にしてみたいなって。たぶん家で弾き語りで作ったものをダンス調にアレンジしたのかなって感じに思えたので、そのまんまの形に戻してみようかなってイメージで。
北沢:こっちが原型じゃないの? っていう一種の批評だね。
小山田:批評というか、まぁアプローチの仕方として、逆の考え方というか。もともとのトラックは打ち込みとかシンセとか、わりとテクノ寄りのものなんだけど、楽曲自体のメロディとかコードの展開とかすごく多くて、あんまりダンスに向いてないよいうな気がしたっていうか。もうちょっとミニマルじゃないと、やっぱりダンスとかテクノみたいなものにあんまりならないかなって。
それで、僕がイメージした元の形に戻す、みたいなことがコンセプトになったかな。アレンジ的にも、上モノで鳴ってるようなシンセとかを全部アコースティックに変えて、ベースだけ生で入ってたんだけど、逆にそこをシンベにして。
北沢:それもあって、見事にコーネリアス印のリミックスになっているのかな。ラストに入っている鳥のさえずりは原曲には入っていないよね。
小山田:入ってないね。
北沢:歌詞に鳥が出てくるのを踏まえてるし、これが入ることによって、さっきのペンギン・カフェの海の音みたいなアンビエントの要素がそこかしこに散りばめられているのと相まって、アルバムとしてトータルに聴くときに、すごく自然に聞こえて、そこもすごくいいなって思った。これも後半のハイライトかなって感じだね。
■Cornelius / Tokyo Twilight
北沢:次がコーネリアスのもうひとつの新曲“トーキョー・トワイライト”。
小山田:ずっとアルバムを作ろうと思って、曲はずいぶんと作りつづけていて。だからストックがけっこうあるんだけど、このコンピレーション・アルバムを作るときに、足りない要素として、そこから持ってきました。
北沢:エレピと生ピの単音ではじまる、ちょっと水滴を思わせるアンビエント・トラックで、そこに壮麗な響きのシンセが被さってきて、音の要素は少ないんだけど……。ムード的にはザ・ドゥルッティ・コラムを思い出させるというか。ドゥルッティのインストの感じっていうのかな。すごくこの曲好きだけどね。
小山田:ドゥルッティ・コラムは僕も大好きです(笑)。
ずっとアルバムを作ろうと思って、曲はずいぶんと作りつづけていて。-
北沢:最後の一歩手前に置くのにピッタリ。こういう小曲がたくさんストックされている感じ?
小山田:いや。そんなにたくさんってわけでもないけどね。こういうリミックス集でもなんでもいいんだけど、一枚の作品にするときに、歌もの的な濃密なトラックがたくさん並ぶとけっこうお腹いっぱいになるんだよね(笑)。
北沢:とくに後半はけっこう濃いのが(笑)。
小山田:そう。だからやっぱりこういうものがたまに入るほうが、僕的にはしっくりくるんで。
北沢:中西さんとサカナクションのあとだもんね。
小山田:ちょっと濃いよね。
■salyu × salyu / May You Always
北沢:そして最後がsalyu × sakyuの“メイ・ユー・オールウェイズ”。これはザ・マグワイア・シスターズの59年の曲。
小山田:これもやっぱりライヴでカヴァーしてた曲なんですよ。これオリジナルはマグワイア・シスターズなんだけど、いろんなガールズ・コーラス・グループがやっていて、レノン・シスターズっていうひとたちのヴァージョンに比較的近い感じがする。まぁ、ああいう50年代の後半から60年代前半ってこういうガールズ・コーラス・グループってたくさんあって。
それでsalyu × salyuはもともとはひとりで多重録音をして作っていたんだけど、ライヴではそれを再現するためにSalyuの昔の合唱団の友だちとかをスカウトしてきて、salyu × salyuシスターズみたいなのは感じでやってたのね。そういうガール・グループの曲を1曲やりたいなと思っていて、それで僕が選曲したんですけど。
北沢:そうなんだ。すごくハマってる選曲だね。俺はマグワイア・シスターズのヴァージョンしか聴いてないけど、あの頃特有のゴージャスな楽団サウンドにのって、三姉妹がゆったりとハモるっていうノスタルジックなスタイルじゃない? 50sのこの時点ですでにノスタルジックっていう。
salyu × salyuのヴァージョンを聴いたら、テンポは原曲に近いんだけど、歌唱とかハーモニーの付け方も、なるべく似せようとしているような……普段の歌い方ともちがうような気がして、ずいぶん器用なことができるんだなと思った。
小山田:これは3人でコーラスをやっているんだけど。
まったくいじってない。これもほぼ一発録りなんです。オケも。
北沢:ぜんぜんいじってないの?
小山田:まったくいじってない。これもほぼ一発録りなんです。オケも。自分の作品とかリミックスにしても、スタジオ一発録りってことは僕はほぼやらないんだけど、salyu × salyuの2曲に関してはスタジオ一発録りみたいな。
北沢:それは、そうした方が向いてるんじゃないかっていう?
小山田:それもあるし、やっぱりライヴでずっとやってきた曲だったりするから、もう練れてるっていうのもあるかも。
北沢:『Sensuous』のエンディングにシナトラのカヴァーを置いたのと、役割的には……
小山田:うん、かなり近いですよね。
北沢:こんなふうに終わりたいっていうイメージが小山田くんのなかにあるのかな?
小山田:うーん。出口はね。こういう、いかにもというか、ハッピー・エンディングなのはわりと好きです。
最初の曲に入っているモーグとかもそうだけど、そういうものが作られた50年代や60年代って、世の中がこれからどんどんよくなるっていう、未来に対する明るい希望が本当にあったんだろうなって。で、そういう気持ちが人々の間にまだあって、そういう希望がリアルに音楽の形になっていると思うんだけど、なんかそういうものがすごく好きっていうか。
北沢:『Sensuous』のときのインタヴューで、とくに“スリープ・ウォーム”のエピソードが印象に残っていて。……お父さんのレコード棚を整理してたらシナトラのレコードが出てきて、しばらくハマって聴いていたんでしょう? そこでシナトラの人生について書かれた本を読んで、いろいろ複雑な生い立ちから彼の音楽は生まれてきたんだなと。そういうことがわかるような年齢に自分は達したんだな、っていう。
50年代のこうした音楽に惹かれるというのは、ここ数年の傾向なの?
小山田:そうですね。ここ数年というか。若い頃はぜんぜん聴いてなかったですね。
北沢:これはロックンロールじゃない音楽だものね。
小山田:たとえば最初の(大野さんの)曲に入っているモーグとかもそうだけど、そういうものが作られた50年代や60年代って、世の中がこれからどんどんよくなるっていう、未来に対する明るい希望が本当にあったんだろうなって。で、そういう気持ちが人々の間にまだあって、そういう希望がリアルに音楽の形になっていると思うんだけど、なんかそういうものがすごく好きっていうか。いまは絶対に生まれないというか、そういうものだと思うんですよ。
北沢:失われた未来感というかね。
小山田:まだ世の中に明るい希望があった時代の音楽っていうか。
北沢:同じような時代を背景にしても、ドナルド・フェイゲンが『ナイト・フライ』っていうファースト・ソロアルバムを80年代の初頭に出したときは、米ソの冷戦間のムードみたいなものも作品の背景にはあって、実際には50年代から60年代にかけて、世界中が緊迫している時代でもあったと思うけど、こういうシスターズものにしてもシナトラにしてもさ、そういう翳りがないよね。まだまだ楽天的だったんだろうね。
小山田:その時代に生きていないからわからないんだけど、僕はそういうものを感じるんですよ。
北沢:それに憧れる感じ? それとも、それを哀惜というか惜しむ感じ?
小山田:うーん。両方ですね。
北沢:最近の細野(晴臣)さんにもそれを感じるんだよね。
何が主流かもよくわからないですから。
小山田:細野さんとかが最近やっている音楽はそういう感じですよね。
北沢:その名も『Heavenly Music』っていうカヴァー・アルバムは本当に素敵だった。だから小山田くんも、細野さんと共通する心境なのかなと思ってさ。最近の細野さんは、ライヴでもカントリー&ウェスタンとかブギウギみたいなアメリカのポピュラー・ミュージックのオールディーズを熱心にカヴァーしているし、いまは遠く失われてしまった世界に強く惹かれているのかなって。
小山田:それはありますね。でも細野さんはその時代を生きていたひとだし。子どもの頃に身近に感じていたものを、知っているひとが後世に残さなきゃとか、そういうことがあると思うんだよね。
でも僕はもうちょっと距離がある感じがしますね。
北沢:小山田くんのベースになっているのはニュー・ウェイヴ以降の音楽だもんね。でも、距離があるにもかかわらず、いま、50年代のスタンダードなポップスに惹かれていく心境はどういうところからきたの? 現実があまりにも未来がない感じがする? ゴティエ的なメッセージが……(笑)。
小山田:そういうゴティエ的なメッセージはあんまり聞きたくないですね(笑)。
北沢:それはあまりにも現実がシビアだから? それとも小山田くんの性格的に?
小山田:うーん。まぁ、両方ですよね。それよりこういうものをたくさん聴いていたいですよね(笑)。
北沢:こういう音楽が似合う世の中だったらどんなにいいか……とは思うよね。
小山田:そう思いますね。ただ、世の中に足りてないな、というものだとは思うので。
北沢:たしかに小山田くんの音楽活動って、世の中にこれが足りないぞっていう空白を埋める歴史のような。
小山田:そうですかね……。
北沢:そういう気がするけど。だって世の中の主流みたいなことを一回もやったことがないじゃん。
小山田:わかんないっすね。どうなんですかね。何が主流かもよくわからないですから。
(まりん氏は)自分でクラフトワークの音が悪いやつとかをマスタリングし直したりね。
北沢:EDMが流行れば、すかさずそれっぽいトラックを作るような人たちが主流なんじゃない? そうだ、マスタリングをまりん氏(砂原良徳)が手がけていることについて訊いていなかった。前からマスタリングが得意なひとなんだよね?
小山田:もともとは趣味でマスタリングをやってたっていうようなひとなんだよね(笑)。自分でクラフトワークの音が悪いやつとかをマスタリングし直したりね。
北沢:こうやって正式に頼んだのは初めて?
小山田:『ファンタズマ』の再発のときに僕が頼んで。仕事としてやったマスタリングはそれが初めてだったらしくて、それ以降すごいマスタリングしてるよね(笑)。
北沢:それが彼のワークスのひとつになったんだ(笑)。
小山田:サカナクションとかも仕事として普通にやってるからね。
北沢:じゃあ、最初っからマスタリングは彼に頼もうっていうのがあったの?
小山田:うん。
北沢:やっぱり他のひととちがう?
小山田:うーん……、どうなんだろうね(笑)。
北沢:気軽に頼める感じ?
小山田:うん。信頼できる。
北沢:来年はニュー・アルバムの取材ができるかな。次のアルバムのテーマとか、けっこう見えてきた感じなの?
小山田:ぼんやりって感じですけどね。
北沢:その前哨戦としてこれを聴いている自分がいるんだけど。本当に楽しみにしてるので。
小山田:はい。ありがとうございます。
北沢:傑作を(笑)。
小山田:か、どうかはわからないですけど(笑)。
取材:北沢夏音(2015年8月26日)