Home > Interviews > interview with Bill Kouligas - テクノとノイズ、いまこの瞬間の実験
とくにノイズやテクノをリリースするためにレーベルをはじめたわけでなく、新しく出て来る“重要”なシーンをドキュメントにするためにレーベルをはじめたんだ。
■2009年にベルリンに住む決意をした理由を教えて下さい。
ビル:ベルリンに移ったのは単純に生活しやすいからね。よりクリエイティヴなプロジェクトに集中できるし、家賃も生活のコストもかからないからベルリンは楽だよ。大きな部屋でも借りれるし、そこにスタジオを作れる、そういった環境が揃っているから多くのアーティストが引っ越すんじゃないかな。余裕ができたおかげで個人的にも自分のペースやちゃんとした生活をここで見つけられたし、とにかくベルリンは住みやすいということに限るね。
あとベルリンを拠点にしたということで、〈PAN〉はその音楽シーンにある多国籍で実験的な部分を反映し、上手く入り込めたと思う。このユニークな環境はよく知られているけれど、この都市はクリエイティヴなリスクを取れるし、実験したいことを育てることができるんだ。〈PAN〉の役割はその育んできた実験を幅広いインターナショナルなシーンに繋げることでもある。
■レーベルの拠点をロンドンやアテネやニューヨークにしなかったのは何故ですか?
ビル:レーベルは、実際は2008年にロンドンでスタートして、自分が引っ越したからいまのベルリンになった。
■〈PAN〉に関してですが、最初は、ファミリー・バトル・スネーク(Family Battle Snake)の作品を出すためにレーベルをはじめたのでしょうか? それともレーベルとしてのヴィジョンが最初からあったのですか?
ビル:レーベルはファミリー・バトル・スネーク(Family Battle Snake)とAstro (Hiroshi Hasewaga)のスプリットLPを出すところから元々ははじまっていて、とくに何かそれ以上のヴィジョンや大きなアイデアがあったわけじゃない。はじめてみたらとても面白くて、他のアーティストと一緒に作るのが好きだったから、自然にレーベルが軌道に乗って、いまのようにどんどんリリースできるようになっていった。
■CDではなくヴァイナルでリリースするというレーベルのポリシーはどうして生まれたのですか?
ビル:全くポリシーはない。はじめた当時はCDが全く売れなくなってアナログが戻って来た時期だったから。去年からヴァイナルとCD、デジタルも出してるよ。
■ラシャド・ベッカー(Rashad Becker)やNHK'Koyxeиらとはベルリンで出会ったと思います。ラシャド・ベッカーはハードワックス(※ベルリンの有名なレコ屋)を通じてなんでしょうが、NHKコーヘイとはどんな風に知り合ったのでしょう?
ビル:ラシャドはベルリンで10年前に会った。僕が演奏しているアルバムをプロデュースしているときときだね。そのときはまだロンドンに住んでいたんだけど、2週間くらいラシャドのスタジオでレコーディングのためにベルリンに滞在していた。それから近い友だちになってレーベルの立ち上げ時からアドヴァイスを貰ったり、いろいろ助けて貰った。コーヘイはラシャドの友だちで、自分のベルリンにいる友だちの友だちでもあったんだ。同じグループにみんないたから、近しい関係になってアルバムを出すことになった。
■NHKコーヘイがそうですが、最初、彼はより実験的な音響を持っていましたが、2012年の「Dance Classics Vol.I」を契機にダンス・ミュージックへとシフトしていきました。何故彼に「ダンス」というコンセプトを与えたのでしょう?
ビル:それはちょっと事情が違っている。彼はすでにその作品にとりかかっていて、僕はそれがすごく気に入った。そのとき彼はベルリンにいたからよく会っていたし、新しい作品も全てチェックしていた。彼は僕の知っているアーティストのなかでも抜群に才能のある多作家だね。
■〈PAN〉は2012年以降、リー・ギャンブル(Lee Gamble)やメッシュ(M.E.S.H.)のように、実験的ではあるもののダンス・サウンドを持っている作品を出すようになります。あなたのなかにどんな変化があったのでしょうか?
ビル:僕はカルチャーが生み出す独自の空間に影響受けることに興味がある。どういったことが自分のまわりで起きていて、それがどう自分に作用するのか。ベルリンではそれがすべてエレクトロニック・ダンス・ミュージックなんだ。とてもシーンが大きい。ロンドンはロンドンで独自のシーンがあって、ニューヨークもまた別のシーンがある。自分が惹かれているものを探し出して、それを混ぜ合わせることが重要だと思っている。
■ちなみにレーベルで最初にヒットしたのは、リー・ギャンブルの「Dutch Tvashar Plumes」ですか?
ビル:リー・ギャンブルの『Diversions 1994-1996』とキース・フラートン(Keith Fullerton)の『Whitman's Disingenuity』は初期のリリースで、シーンをクロスして評価された作品だね。オーディエンスやプレスからそういった反応があったことはありがたい。けどそれはそれで、僕は自分がリリースしてきたものすべてが公平に大好きだよ。
■あなたは、ジェフ・ミルズやサージョンは好きですか? もしそうなら、彼らのどんなところに惹かれるのですか?
ビル:もちろんふたりとも尊敬している。ジェフ・ミルズはどの時代であっても大きな影響を受けていて、一番最近だと彼の「Sleeper Wakes」シリーズは相当ハマったね。
■デトロイト・テクノからの影響について話してもらえますか?
ビル:テレンス・ディクソン(Terrence Dixon)とアンソニー・シェイク・シェイカー(Anthony Shake Shakir)は最高だね。
■メッシュの作品にリミキサーとしてロゴス(Logos)も参加しているように、あなたはUKのグライムを好きだと思いますが、とくにあなたが評価している人は誰でしょう?
ビル:初期のころからグライムの大ファンだよ。新しいアーティストでいったらヴィジョ二スト(Visionist)がずば抜けている。彼は新しいグライムのシーンから出てきて作品はもちろんその影響が大きいんだけど、それと切り離して自分自身のサウンドを作っているね。とても面白いアルバムがもうすぐ出せると思う。
■ここ最近もアフリカ・サイエンシーズ(Afrikan Sciences)やオブジェクト(Objekt)などユニークなアーティストの作品を出していますが、リリースするにいたる基準について教えて下さい。
ビル:僕は発端という点で音楽と深く関わっているわけで、それは直感ではなく、どうやって個々のアイデアが形になるかを見ていく場所にいるような感じかな。〈PAN〉のすべてのリリースはフィジカルな場所で起きているものが形になってでき上った結果のようなもので、もしそのレヴェルで音楽を見ていれば、コンセプトやコンテキストという点でも、〈PAN〉が形成されていく過程は首尾一貫していてロジカルであるとわかると思う。とくにノイズやテクノをリリースするためにレーベルをはじめたわけでなく、新しく出て来る“重要”なシーンをドキュメントにするためにレーベルをはじめたんだ。
■イルなラッパーとして知られるスペクター(Spectre)のリリースにも驚いたのですが、これはコーヘイ(※Sensational名義のプロジェクト)繋がりなのでしょうか? それともあなたにとって彼は影響のひとつだったのでしょうか?
ビル:いや、もともと〈WordSound〉の古くからのファンで、長いあいだレーベルをフォローしてた。あのテープはずっと持っていて、去年久しぶりに聴いたときに、ふとオーナーのスキッズにコンタクトをとってライナーを付けてマスタリングをして、ちゃんとレコードで再発しないかと話を持ちかけたら、彼は気に入ってくれて直ぐに出すことになった。
■こんどリリースされるTCFについてのコメントをお願いします。
ビル:TCFはアカデミックなアーティストで、レーベルのこれからの発展にとって大きな鍵となる存在だね。彼のライヴとリリースはサウンドだけでなく、テキスト、ヴィジュアル/イメージ、映画といったさまざまなとKろに関わるだろうし、またそれらがすべて繋がった面白いことになると思う。
■NHKやマージナル・コンソートのような日本人アーティストの作品を出していますが、今後、リリースしてみたいと考えている日本人アーティストはいますか?
ビル:もちろん! 日本のツアーで新しい人たちと出会えることが楽しみだね。
■今週の初来日への抱負をお聞かせ下さい。
ビル:このツアーを実現してくれた全ての関係者と〈melting bot〉に感謝します。初めて行くところだから本当に楽しみでしょうがない。いろんな人に来て貰いたいし、僕らが発表するものにどんな形でも関わってくれたらうれしい。
PAN Japanツアー日程
experimental rooms #19 Lee Gamble質問:野田努(2015年6月09日)
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