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interview with Clark

interview with Clark

冬のための電子音楽

──クラーク、インタヴュー

木津 毅    通訳:原口美穂   Nov 06,2014 UP

Clark
Clark

Warp/ビート

TechnoElectronica

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 今年はエレクトロニカ/IDMの年だったというひとも少なくないだろう。EDMが席巻し、バカ騒ぎのイメージばかりが目立ってしまったフロアに対するカウンターとしてエレクトロニック・ミュージックの実験主義はいまこそ存在感を増しているし、何と言ってもエイフェックス・ツインさえも復活してしまったのだから。クラークによる7枚めのアルバム、その名も『クラーク』は、そんな年の締めくくりにふさわしい1枚だ。

 クリス・クラークは2001年の『クラレンス・パーク』のデビュー以来、エイフェックス・ツインと度々比較され、その多作ぶりで結果的にエイフェックスの不在を埋めることとなったが、時代はけっしてずっとIDMに味方していたわけではなかった。彼自身はマイペースに、そしてワーカホリックに気の向くままひたすら作曲を続けてきたとの発言を繰り返しているが、しかしながら大胆にハードなテクノ、あるいはエレクトロに転身した『ターニング・ドラゴン』(08)、オーガニックな生演奏をふんだんに取り込んだ『イラデルフィック』(12)など、かなり思い切った変化を見せてきた。いま思うと、その変身と多面性が彼のこの10数年のサヴァイヴのあり方だったのかもしれない。
 本作『クラーク』の特徴をいくつか挙げるとすれば、まずはビートが比較的リニアなものが多くダンサブルであること。序盤はBPMが同じトラックが続く場面もある。次に、これまで彼が辿って来た音楽的変遷がたしかに溶け込んでいること。シンセやピアノ、あるいはストリングスによる多彩な音色使いによって曲ごとのカラーはさまざまで、“アンファーラ”のような勇壮なテクノ・トラックもあれば、“ストレンス・スルー・フラジリティ”のようなピアノ・ハウス、“バンジョー”のような音の隙間で聴かせるユーモラスな電子ファンクもある。ラストの“エヴァーレイン”はほとんどドリーミーなアンビエントだ。そして、ほとんどのトラックで印象的で美しいメロディが奏でられている。
 本作のポイントは、雪を踏みしめる音や雷雨を録音したフィールド・レコーディングであるという。しかし、それらは一聴してわからないほどサウンドに溶け込んでおり、あくまで隠し味としてアルバムのそこここに息を潜めている。この事実が示しているように、ずいぶん複雑で洗練されたやり口で彼のエレクトロニック・ミュージックの実験と冒険はここで編み込まれているのだ。考えてみればキャリアも10年を悠に超えるこのベテランは、その間ずっと作曲ばかりをしてきたのだ。
 この多様な表情が隠されたアルバムのアートワークが彼のセルフ・ポートレイトの黒塗りになっているのは、クラークならではのジョークだと思えばいいだろうか。どこか飄々とした彼のこれまでの歩みが、このセルフ・タイトルの静かな自信へと辿りついたことが何とも感慨深い。

イギリスの田舎にある古い農家のなかで作った。誰もいなくて、村みたいな場所だった。だからその4ヶ月間、曲を書く以外ほとんど何もしなかった。すごく特別な4ヶ月だったよ。本当に孤立していたんだ。

やはり、まずはここから訊かせてください。7作めにして、タイトルを『クラーク』としたのはなぜですか?

クラーク:この質問、みんなから訊かれるんだよ(笑)。たしかかに変だからね。普通だと最初の作品をセルフ・タイトルにするひとのほうが多いからね。今回のアルバムは最初、自分をテストするような作品だったんだ。エレクトロニック・ミュージックにおいて自分がやってきたことをただまとめるだけじゃなくて、もう少し自分のサウンドを表現してみたいと思った。だから自分をテストしてみることにして、4ヶ月かけてこのアルバムを書いたんだ。いままでにそんなことはなくて、いつも何年かかけて書いてきたトラックを集めてアルバムを作ってた。でも、この作品に関しては、4ヶ月かけて最初に何もない状態から書きはじめて完成させたアルバムなんだ。すごく集中していたし、そのエナジーが反映された作品だと思うよ。

■(通訳)その新しい試みは、実際やってみていかがでしたか?

クラーク:どうだろうね。前まではやっぱりコレクションだった分、コラージュって感じであまりトラックが直線上に並んだ感じはしなかったと思う。でもこれは4ヶ月集中して……って、さっきからなぜ「クラーク」ってタイトルにしたかの答えにあまりなってないよね(笑)、ごめん。でもとにかく、そういう理由があって、アルバムを「クラーク」と呼ぶのがすごく自然に感じたんだ。制作の最初の時点からこのアイディアはあって、セルフ・タイトルってすごく大胆だから、正直不安はあった。果たしてじゅうぶん良い作品になるんだろうか、とか、失敗するかもしれない、とか、愚かなアイディアかもしれない、とか。でも最終的にアートワークも含め見てみると、すごく自然に感じたんだ。このアルバムにタイトルは必要ないと思った。すごくいい気分で、いろいろ経験してついてきた自信がこのレコードに反映されていると思っているんだ。作品の内容自体がよければ、タイトルってあまり気にならないだろ? 自分がそう感じることができたってことは、自分がこのアルバムに心地よさを感じることができてるってことなんだと思う。

■(通訳)制作はどこで?

クラーク:イギリスの田舎にある古い農家のなかで作った。誰もいなくて、村みたいな場所だった。だからその4ヶ月間、曲を書く以外ほとんど何もしなかったね(笑)。すごく特別な4ヶ月だったよ。本当に孤立してたんだ。ヒゲも伸びまくって(笑)。実際やってみて、集中できたからすごくよかったよ。

リミックス・アルバムであなたは自分の音楽性を「フィースト」と「ビースト」という、ふたつに大別していました。それをこのアルバムでひとつにしたかったのではないかとわたしは感じたのですが、そういった意図はありましたか?

クラーク:うーん……でもそう感じるのはありだと思う。今回の作品は、ライヴ楽器を一切使っていない生粋のエレクトロニック・アルバムなんだ。シンセと古い機材しか使ってない。『フィースト/ビースト』もそういうアルバムだったし、『クラレンス・パーク』や『エンプティ・ザ・ボーンズ・オブ・ユー』に戻る部分もあると思う。すべてのトラックが俺の昔の作品が持つ何らかの要素を思い起こさせる。でも今回は、それを表現するだけじゃなくて、新しいフォームに作り替えることにフォーカスを置いたんだ。

実際、『フィースト/ビースト』はあなたの全キャリアを振り返る作業となったわけですが、そこで何か発見したことはありますか?

クラーク:何かを発見すると言うより、リミックスはただ好きでやってるんだよね。リミックスはひとの作品だから、その作品は自分にとってそこまで重要じゃないから、良い意味で遊べるんだよ。周りから与えられるプレッシャーも好きだし。だいたい一週間くらい与えられるんだけど、その時間のプレッシャーがあると最高の作品が出来る。「仕上げないと殺すぞ!」みたいなプレッシャーに駆り立てられるんだ(笑)。で、完成したら報酬をもらって、次の作品制作に進む。そのシンプルさが好きなんだよね。

以前から疑問に思っていたのですが、あなたは音楽性をガラッと変化させるときも、ほかの多くのエレクトロニック・ミュージシャンのように、名義を使い分けるようなことはしませんでしたよね。そういったことはまったく考えてこなかったのですか?

クラーク:名義の使い分けはあまり意味がないと思っていて……どんな作品であれ、みんな結局それが同一人物の作品ってわかるわけだし、俺はジャンル・ミュージックは書かないし。ひとによっては、これはテクノのプロジェクト、これはヒップホップのプロジェクト、これはダブステップでこれはトラップ、みたいにプロジェクトをわけて名前を使いわける。でも俺は、なんでそういう風にジャンルにリミットを定めて音楽を作るのかわからないんだ。

とくに前半ですが、本作はビートが一定のものが多く、非常にダンサブルなアルバムとなっています。『イラデルフィック』のときあなたは、「テクノ・ミュージックから少し距離を置きたかった」とおっしゃっていましたが、今回ストレートにテクノ・サウンドを打ち出してきたのはどうしてですか?

クラーク:前に探索していたものに戻って、そこからまた何かを広げていこうと思ったんだ。

質問作成:木津 毅(2014年11月06日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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