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Interviews

interview with Laurel Halo

interview with Laurel Halo

サルにストーリーは語れない

――ローレル・ヘイロー、インタヴュー

文:橋元優歩   記事提供:BEATINK  photo by Ismini Adami   Nov 01,2013 UP

Laurel Halo
Chance Of Rain

BEAT / Hyperdub

Tower HMV Amazon iTunes

 自分で掘った墓穴に入って、所在なくそのときを待っている――死か、雨か。『チャンス・オブ・レイン(降水確率)』のジャケットに使用されている、滑稽なようにも陰鬱な狂気であるようにも見える絵は、もう数十年も前に父親が描いたものだそうだ。このアルバムを「カラフル」と称する当代きっての女性プロデューサー、ローレル・ヘイローは、絵については「殺伐」と評し、自身の音とは対照的なものととらえているようだが、どうだろうか。むしろカラフルさから遠く離れて、彼女はいま色のない地平に立ち、墓穴のそばで雨を待つように、ストイックにビートの追求を行っているように見える。

 非常にハードなテクノの印象を強めた、ローレル・ヘイローのセカンド・アルバム『チャンス・オブ・レイン』。彼女は、弊誌vol.6「宅録女子特集」で、グライムスやマリア・ミネルヴァ、メデリン・マーキー、ジュリアナ・バーウィックらとともに取り上げた頃からずいぶんと変化を見せた。それぞれに強烈な個性と方法を持ち、けっして消費されない存在感を放つ彼女たちを一概にくくることはできないけれども、ヘイローはこのなかではもっとも意識的(反省的)に自身の方法論を見つめ、前進させてきたアーティストかもしれない。
 本作を聴けばそれがよくわかるだろう。冒頭と終曲こそはひと刷けの叙情によって色づいているが、基本的には非常にミニマルなスタイルが保持され、硬質なビートとともに薄墨色の世界が構築される。あまり得手とはいえなかった声による表現もばっさり切られ、まるであえて華やぎや抑揚を消そうとさえするかのようだ。前作の否定、凌駕。感性やひらめきで世界を立ち上げるのではなく、テクニカルに抽象性を生む――なんとなく、そのように自らに課しているのではないかと思えてくる。
 〈ヒッポス・イン・タンクス〉から〈ハイパー・ダブ〉へ。ジェイムス・フェラーロやハイプ・ウィリアムスやOPNをまたぐような地点に前作『クアランティン』はドロップされたわけだが、その場所の重要性を知ればこそ、次に自分がなすべきこと、見出すべきものを、真剣に考えているのだろう。前作以降はライヴ・セットを充実させることにも力を注いだというが、そこでの方法を応用し、ビートを軸として再現性ではなく即興性を優先したというエピソードには今作の性格がよく表れている。そしてその非カラフルな音の佇まいには、どこかアンディ・ストットやデムダイク・ステアなどのモノクロームにひそめられた高い美意識とストイシズムすら連想される。彼らを透過するかたちで本作をインダストリアル的だと評することもできるだろう。現在形の音楽として申し分ないリアリティと、自身の成長の程を見せつける傑作となった。

 本作をもって、ヘイローは現代を代表する女性プロデューサーとして随一の存在へと押し上げられることになるはずだ。そのようにステージが上がることは、勤勉な彼女をさらに磨いていくに違いない。『WIRE』のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得したデビュー作はその輝かしい布石にすぎなかったのだと、誰もが語るところとなるだろう。一見色のないこのアルバムは、じつのところは彼女自身が言う「カラフル」さの凝縮と研磨による果実である。白と黒とでローレル・ヘイローはなんとも複雑な音――ストーリーを描きだしている。

基本的に「未来」には魅力を感じるけど、「未来」という考えについての無用な議論には落胆してしまうの。

新作、『チャンス・オブ・レイン』は『クアランティン』と比べると、よりヘヴィにリズムを重視し、そして時にはほとんどテクノのような音のアルバムになりましたね。またヴォーカルや、暗く低い音もほとんどありません。なぜこのようなサウンドに変わったのでしょうか。前作と今作での制作上、およびレコーディング上の違いについて教えてください。

ローレル・ヘイロー(以下LH):端的に言うと、わたしがライヴでやっているような音のレコードを作りたかったの。『クアランティン』はスタジオで一から作りはじめ、ライヴで再構築するという流れ。『チャンス・オブ・レイン』はまったく逆で、ライヴのために作成したシークエンスから各トラック、アルバムへ作り上げたもの。このアルバムでは作曲する上で新しいアプローチを取りたかった。たとえば、各トラックのチャンネル数を少なくする、あからさまなメロディ・ラインを取り入れずにメロディっぽく聴こえるようにする、とかね。もちろん、わたしがずっと重視してきた曲の流れやムードといった音楽的要素は維持しながらだけど。わたしの音楽には常に闇がある。『クアランティン』は今作よりその部分がよりはっきりしていたと思う。あと、『クアランティン』をリリースする前は、よりビート重視の音楽を出していたことを考えれば、そんなに大きな変化だとは思わない。ただ音が進化した、というだけじゃないかしら。

わたしは前作と今作の2枚、未来的かつロマンティックな音だと感じました。これは、あなたの世の中との関係や世の中に対する見方、態度を反映していますか。あなたはロマンティックな人間だと言えるでしょうか。どのようなものにインスピレーションが涌き、美を見出しますか?

LH:あなたが言っている「未来的」や「ロマンティック」な音がどういうものかわからないけれど、わたしの音楽はいわゆる「ロマンティック」なものだとは思わないし、確かにプログレッシヴな音楽を作ることには興味があるけれど、「未来的」だとは思わない。「未来的でロマンティック」という表現は、ただ未来的であることが良いことだ、というように聞こえるわ。自分の音楽をそのように捉えてはいないの。未来は過去によって形作られるのに、どうやってそれを無視してヴィジョンだけを持てるの? サイエンス・フィクションみたいで、そのような考え方にわたしは賛成できない。
基本的に「未来」には魅力を感じるけど、「未来」という考えについての無用な議論には落胆してしまうの。それよりも、アイディアありきであり、連続性がなく前進するのみ、という考え方を変えるために何ができるかに興味があるの。ロマンティックだと感じる理由はたぶん、キーボードの音や気まぐれなコードからではないかな。けれど、やはり「ロマンティック」とは呼べないと思う。

モダン・テクノロジーとインターネットが文化に多大な影響を与えるという、おもしろい時代にシーンに登場してきましたね。モダン・テクノロジーおよびテクノロジーとアートとの関係からどのような影響を受けましたか。ポジティヴなこととして受け止めていますか、それともネガティヴなこととして受け止めていますか。

LH:作曲という面からはモダン・テクノロジーをとくに好んで取り入れてはいない。古い音と新しい音、両方使用するしね。けれども、もし生み出される音楽がよければiPadを使って音楽を作っても良いと思う。モダン・テクノロジーを決してネガティヴには捉えていないけれど、その無限の可能性によって逆に個性が発揮されないというリスクがあると思う。最近の音楽の多くは同じようなサウンドばかりだから、アーティストはもっと自分のこだわりをもたなければいけないのではないかしら。


不機嫌さの複雑な描写という意味ではアルバム・カヴァーとアルバムの音には一貫性があるし、アルバムの音がよりカラフルなのに対し、画題のもの悲しさという面ではコントラストを生み出すものでもある。

アルバム・カヴァーの意味について教えてください。アルバムの雰囲気とどのように関係していますか? カヴァー・アートの重要性は?

LH:カヴァーはわたしの父親が描いた絵で、スタジオ・モニターの後ろの壁に飾ってあるものなの。長年にわたって、その絵を毎日鑑賞しているわ。人を混乱させる絵だけれど、ブラック・ジョークや希望も含まれているの。不機嫌さの複雑な描写という意味ではアルバム・カヴァーとアルバムの音には一貫性があるし、アルバムの音がよりカラフルなのに対し、画題のもの悲しさという面ではコントラストを生み出すものでもある。カヴァー・アートはわたしにとってとても重要なもの。音楽を表現するものだし、アルバムをまとめる役割も果たすわ。

あなたはクラシック音楽のトレーニングを受けていますね。それによる恩恵はどのようなものがありますか。また、身につけたスキルによってより自由に音楽制作ができていると思いますか、それとも足かせになっていますか。エレクトロニック・ミュージシャンにとってクラシック音楽に関する知識や楽器を弾けることは重要なことだと思いますか。

LH:クラシック音楽のトレーニングは利益にも不利益にもなると思う。例えば、音感トレーニングを受けたために、ベーシックなハーモニーにはすぐ飽きてしまい、変なコードを探したりしちゃうの。けれどピッチに関する情報は音楽の物語やフィーリングには全然関係ないでしょ。どれだけ立派にハーモニック・ヴォイシングを構築しても全体のヴァイブスが駄目だったら意味はない。そもそも私が作りたい音楽にハーモニーは関係ないし。セオ・パリッシュが以前、「猿にミックスを教えることはできても、ストーリーを語らせることはできない」と言っていて、このDJに関するコメントはここにこのまま当てはめられるわね。記譜法や音楽理論を学んだり、どんなキーでも歌えるようになるかもしれないけれど、心から音楽をつくることとは何も関係はない。

アナーバーからニューヨークに引っ越しましたね。アナーバーはデトロイトに近いですが、地理的な要因は音楽家としてのあなた、もしくはあなたの個性にどのような影響をもたらしますか。ニューヨークはアーティストとしての生活にどのような変化をもたらしましたか。また引っ越しはあなたの音楽に影響を与えましたか。

LH:音楽を作りはじめたころ、アナーバーの音楽シーンはわたしをすぐに受け入れてくれた。また、小さい街だったため、ひとつのショーにノイズ系、フォーク・アーティスト、ハウスDJなどさまざまなアーティストが集まりとてもクールだったの。ミシガンで育つと、デトロイト、イプシランティ、アナーバーの多くの音楽にインスパイアーされずにはいられないわね。音楽的にとてもおもしろいところで、いつも地元の州の音楽から多くのことを学んでいるわ。ニューヨークではアンダーグラウンド、ワールドクラス問わず、たくさんのアーティストが音楽を作るのを見ることができたので、いろいろなことを吸収できた。そういう意味で、わたしのアーティストとしての人生を変えたわね。また、多くのショーをこなし、貯金することで、ちゃんとした機材を購入できた。さらにトレンドがどのように生み出され、人々がそれをどのように利用し、そしてそれらに巻き込まれないためにはどうすればよいかについても少し学ぶことができた。でも結局、ニューヨークにいながら、ほとんど外出しないで自分の音楽に集中していたわね。

いままでで最高の音楽体験はどのようなものでしたか。それはどのような影響をあなたに与えましたか。

LH:絞るのは難しいわね。たくさんあるわ。Model 500がデトロイト・エレクトロニック・ミュージック・フェスティヴァルで雨のなか数千人の前でプレイし、母船の到着を歓迎するために、ホアン・アトキンスに悲鳴をあげている光景はすごかったわね。あと、池田亮司の作品をすごい低音と頭に突き刺さるような高音で劇場で聞いたときも衝撃的だった。また、凍ったミシガン湖の畔から空に向かって噴き出したように見えるオーロラを見たときの無音状態も忘れ難い。鳥肌がたつような瞬間があるのよ。身の毛をよだたせる、完全に時間を忘れさせる、いつまでも記憶に残る、音や音楽があるのよね。

どのようなライヴ・セッティングが理想ですか。いままででいちばん良かった場所はどこですか。

LH:理想のライヴのためにはきちんとしたベースと落ち着いた高音がでる最高のサウンド・システムが必要ね。当然ノっている観客もね。新鮮な空気がある野外もいいかも知れないわ。最近ではザ・バンカーがクイーンズのリッジウッドの食べ放題中華料理屋で豪華なサウンド・システムを持ち込んで開いたパーティーがベストだったわ。異様だったけれど、とても印象的な夜だったわ。

文:橋元優歩(2013年11月01日)

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