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interview with Mala

interview with Mala

ダブステップとキューバ、その美しい出会い

――マーラ、インタヴュー

野田 努    photos by EDDY FITZHUGH   Aug 28,2012 UP
E王
Mala - Mala in Cuba
Brownwood Recordings / ビート

Amazon iTunes

 これはロマンスである。冒険であり、成熟でもある。多くのダブステッパーはベルリン、アメリカに行った。アフリカを選んだ連中もいる。昨年のDRCミュージックの『キンシャサ・ワン・トゥ』、今年の『シャンガーン・シェイク』のような作品は、21世紀のワールド・ミュージックのあり方の一例となった。
 マーラはキューバに行った。その結実として生まれた『マーラ・イン・キューバ』は、今日のDJカルチャーによるベストな1枚となった。これは大げさな表現ではない。プロデューサーのジャイルス・ピーターソンは、1990年代に彼がロニ・サイズや4ヒーローで実現させたことを、マーラというダブステップ界の英雄の才能、そして、彼の努力を信じることで再度成功させた。ピーターソンはまさに鉱脈を掘り当てたと言える。
 "Introduction"の打楽器によるシンコペーション、ピアニストのロベルト・フォンセカによる穏やかなコードの重なりは、この名作のはじまりに相応しく美しい。ロンドン郊外の冷たいコンクリートの地下室で生まれたアンダーグラウンド・ミュージックがカリブ海諸島でもっとも大きな島、多彩なリズムを擁するキューバと結ぶばれたのだ。
 
 マーラのバイオグラフィーを簡単に紹介しよう。ダブステップのオリジナル世代で、コード9と並ぶ硬派、伝説的レーベル〈DMZ〉のメンバー、デジタル・ミスティックズ名義で作品を出し、ゴス・トラッドの作品をリリースしている〈ディープ・メディ〉の主宰者でもある。
 マーラの作風は、レゲエからの影響を反映していることで知られているので、カリブ海とは必ずしも遠いわけではない。が、サルサのリズムがダークなベース・ミュージックとどのように交流し、混合されるのかは未踏の領域だった。ジャイルス・ピーターソンのような知識豊富なプロデューサーがついているとはいえ、勇気を要する挑戦だったろう。以下の取材においてもマーラは、彼自身がキューバ文化に関して無知だったことを正直に明かしている。
 たとえば"Changuito"、この曲ではシンコペートするカウベルの音からはじまり、しばらくするとド迫力でダブステップのビートが挿入される。このシンプルな構造には、しかし激烈な移転の魅力がある。このような見事な雑食性は、"Mulata"のようなサルサのピアノを注いだ曲をはじめ、アルバムの一貫した態度となっている。無理矢理日照時間を引き延ばすわけでもないが、真夜中の美学で統一されているわけでもない。マーラはその両者の反響を手際よく捉えている。スペイン語の歌が入った"Como Como"は前半のハイライトのひとつだが、こうした不安定な異国情緒は、ラロ・シフリン(映画音楽で知られる)の領域にまで接近している。

 DJカルチャーらしい大胆なミキシング......つねにそこには多彩なリズムがあり、低周波が響いている。"Calle F"はラテン・ジャズのベース・ヴァージョンだし、マーラ自身もお気に入りだという"Ghost"にいたっては、リズム・イズ・リズムの"アイコン"のリズミックな恍惚とも近しい。宝石のようなアルバムが欲しいかい? ここにあります!

キューバについて実はあまり知らなかったんだ。キューバ音楽といえば、多くの人が知っている『ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ』くらいのもので、音楽のことも文化のことも、ほとんど何も知らなかった。

あなたのバックボーンにレゲエがあるのは有名な話ですが、同じカリブ海とはいえキューバは言葉も文化も違います。キューバの文化や歴史に関してどう思っていましたか?

マーラ:実はあまり知らなかったんだ。キューバ音楽といえば、多くの人が知っている『ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ(Buena Vista Social Club)』くらいのもので、キューバ音楽のことも、キューバ文化のことも、ほとんど何も知らなかった。

ジャイルス・ピーターソンとの出会いについて話してもらえますか? 彼からはどのようなアプローチがあったんでしょう?

マーラ:ジャイルスとは、彼のBBCラジオ番組でインタヴューを受けたり、〈ブラウンウッド(Brownswood)〉のポッドキャストに出演したりしたことが数回あったのと、以前から僕の音楽をプレイしてくれていたし、イヴェントで共演したこともあったから、お互いのことはよく知っていた。けれども直接制作で直接関わることはなかったから意外だったね。
 ある晩に突然電話がかかってきて、「キューバで『ハバナ・カルチュラ(Havana Cultura)』というアルバムを作るんだが、少し趣の違うアーティストを入れたいから、一緒にキューバに来ないか?」と声をかけてくれた。それが最初で、一度ロンドン・ブリッジの近くのパブで会って、ギネスを飲みながら、プロジェクトについて話し合ったんだ。そのときに彼が知っているキューバの話をしてくれて、僕は逆にキューバのことは何も知らないことを伝えた。話を聞いたら、とても誠実なプロジェクトだと感じて、それに誘ってもらえたことをありがたく思って、2011年の1月に最初のキューバ訪問に出かけたんだよ。

彼は長いあいだ、世界のクラブ・ジャズ・シーンをリードしている人物ですが、あなたから見てジャイルスの良さはどこにあると思いますか?

マーラ:ジャイルス・ピーターソンのような人物は、本当に音楽にとって重要だ。これまで素晴らしい功績を残していて、素晴らしいミュージシャンたちと仕事をしてきただけでなく、つねに最先端で、気持ちが若々しい。彼はつねに新しい切り口や、新しい音楽、新しいアーティスト、新しい音楽の紹介の仕方を考えている人。ジャイルス・ピーターソンみたいな人はそういない。僕の知っているなかで近い存在といえばフランソワ・Kもそういう人だね。年齢はずっと上だけど、音楽に対する考え方はとても先駆的で、古いやり方にとらわれていない。
 とにかくジャイルスと一緒に仕事が出来たことは幸運だと思っているし、彼は僕がこのアルバムを制作していた1年のあいだ、とても辛抱強く見守ってくれた。ジャイルスはずっと僕の作った音楽を楽しんでくれていた人だから、僕は別に誰かに認められたいと思っているわけじゃないけれど、自分のやっていることに自信を持たせてくれた。誰でもそう思わせてくれるわけじゃないからね、ジャイルスのこれまでの歴史があるからこそそう思わせてくれる。彼は根っからの「ミュージック・マン」。そんな彼に信頼してもらえて本当に嬉しく思うし、ジャイルスとは生きている限り、いい友人でいられるんじゃないかな! プロジェクトが終わったからといってなくなる関係ではなく、一生続いていくものだと思う。

最初このプロジェクトに誘われたとき、あなたに迷いはなかったでしょうか?

マーラ:誘われたときにすぐ「やりたい」と思ったよ。だから、すぐにやる気があることを伝えたけど、そう返事してから、家族や友だちにプロジェクトのことを話してどう思うか意見は聞いた。でも、絶対に逃してはいけない機会だと最初から思ったよ。こういう企画はそう頻繁にあるものではないし、むしろ一生に1回あるかないかのチャンスだ。それくらい、大きな意味があるものとして受け止めた。僕の慣れ親しんだものとはまったく違うから、冒険でもあったけど、ときにはそういうものに飛び込んでみるべきだと思った。

取材:野田 努(2012年8月28日)

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