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Columns

The Beach Boys

いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと

──ele-king books新刊、『50年目の『スマイル』』をめぐる対談

萩原健太×木津毅 Sep 21,2017 UP

ビーチ・ボーイズは、なんとなく昔ながらのショウビズの美学のなかで活動しながら、あんな地点にまで至っちゃったっていうのがおもしろいと感じますけどね。
(萩原)


50年目の『スマイル』――ぼくはビーチ・ボーイズが大好き
萩原 健太

Amazon Tower HMV

木津:さっき僕らの世代だったら『Pet Sounds』が中心になってという聴きかたが多いという話をしたんですけど、萩原さんの世代でいまもビーチ・ボーイズを聴くかただとまだ『Surfin' U.S.A.』のイメージなのか、それとも『SMiLE』に思い入れをもって聴かれているかたが多いのか、どうなんでしょう?

萩原:ずっと聴いている人なら『Pet Sounds』、『SMiLE』、『Sunflower』あたりのビーチ・ボーイズはかなり上にいると思うんだよね。ずっと聴いている人はね。でも昔聴いていましたくらいの人はあいかわらず『Surfin' U.S.A.』なんじゃないかなあ。まあそれでいいのかなとも思うし。ただずっと聴いている人が案外すくないよね。

木津:そうですね。僕がすごく印象的だったのが、ライヴに行かれたときに近くにいた人が「懐メロじゃねえか」と言ったことに心のなかで反論したというところで、これは懐メロをギリギリのところで回避する永遠のティーン・エイジ・ドリームなんだ、と書かれていてなるほどと思ったのですが、その反論の部分を存分に聞かせていただきたいなと思います。これはひとつ個人的な話なんですけど、母親とサイモン&ガーファンクルのライヴに行ったときに、よかったんですけど僕は懐メロだなと思っちゃったんですね。音楽もいいし、テーマもいいと思ったんですけど。

萩原:79年にビーチ・ボーイズが「JAPAN JAM」のために来日したときの話ね。僕は懐メロとは違うと思ったんだよね。でもそう言われてもしょうがないなと思ったステージでもあったの。当時のビーチ・ボーイズにはそこが限界だったと思う。でもその後、2012年に結成50周年で来日したときは違った。ブライアンのバンドを基本にして、そこにビーチ・ボーイズのほかのメンバーが入って行なわれたステージで。これは確実に懐メロじゃなかった。やってる音楽は同じなんだけどね。結局、どうやるかにもよるんだよね。
あと、リスナー側が若いとだいたい古い音楽は懐メロに聴こえるよね(笑)。僕もたぶんサイモン&ガーファンクルの同じ来日公演を観にいっていると思うんだけど、僕は懐メロとは受け止めなかった。エヴァー・グリーンなもの、時代を超えたものだと思った。こっちが歳を取らないとわからないこともたくさんあるしね。ほら、“Old Friends”という曲が『Bookends』にあるでしょ。年老いた旧友ふたりがベンチに座っていて、それがブックエンドのように見えるという歌詞ですよね。彼らが若いときに歌った表現もそれはそれでよかったんだけど、まったく同じことを本当に歳をとっちゃったふたりがあそこで歌ったときに、その曲がようやく時代に対してリアルに意味のある表現になったと感じたの。こっちも一緒に歳をとったからというのもあるんだけど、その歳月の果てにあの曲がようやく意味をもったという瞬間だった気がする。それは懐メロとは言えない。古い曲ではあるけれども、いまも生きているすごい曲だなと思いました。
それはブライアンやビーチ・ボーイズに関してもそうで、ブライアンがいまの自分のバンドを手に入れてからということにすごく意味がある気がする。彼ら、ブライアンの今のバンドのメンバーがブライアンの昔の音楽をいまに意味のあるものに作り変えていく。まったく同じアーカイヴを聴かせているだけなんだけど、ちゃんといまの表現としてできるやつらが集まった。それを知り抜いている人たちがバンドをやっている。これがけっこう重要な気がしていて、今回『SMiLE』を作れたのもあのバンドがいたからだと思う。たしかに、本当に古い音楽を古いまんまいまやってもダメじゃん、みたいなことは多い。ビルボード・ライヴに行くとそんなライヴばっかりだったりもするんだけど。だけどたまにあるんだよね。古いとか新しいとか関係なくいまの表現にできているライヴが。ウマいかヘタかにもよるよね。ブライアンのバンドはめちゃくちゃウマいんだよ(笑)。でもただウマいだけだとダメで、やっぱり昔の楽曲をよく知ってリスペクトしているやつらがやると今の音になるんだよね。

木津:仰っていることはわかります。曲が時間の流れとともに、リスナーの関係性も含めて変化するということはありますもんね。

萩原:いい曲っていつの時代でも演じる人によって生きるんだなという気持ちになるのね。そういうふうに聴ける自分がリスナーとしての歳月を積み重ねているというのもあるんですよ。だから僕はジョー・トーマスが諸事情で来られなかったあの99年の日本公演を誇りに思っているわけ。ジョー・トーマスがいたらこんなことにならなかったと思う。いないから、それまではステージ後方でコーラス要員みたいな感じだったワンダーミンツのダリアン・サハナジャが前に出てきて、ブライアンのとなりでやるようになった。それがブライアンにも火をつけたと思うんだよね。そうならずに相変わらずジョー・トーマスが仕切っていたら『SMiLE』はできなかったと思う。だからあの本にも書いたけど、ブライアンがソロで日本に初めて来た初日の大阪公演で大きく変わった気がするんだよね。

木津:そういうお話を聞くと、30年以上の時を経たからこその『SMiLE』の価値というのがあるんでしょうね。

萩原:そこはファンの贔屓目みたいなところもかなりあると思う。僕がビーチ・ボーイズについて言うことは信じないほうがいいってよく言うんだけど(笑)。ほら、僕はもうビーチ・ボーイズに関しては頭おかしいから。なんだけどそういう前提で言わせてもらうと、37年あってよかった。こっちがついて行けるというか、ようやくわかったという感謝の気持ちがありますね。

木津:本を読んでいて、やっぱりファンがそういうふうに30年以上の年月のなかで想像を働かしていくことも含めての作品だったのかなと思ったんですよね。

萩原:そう。いまはそういうのがなかなかないじゃない。あの頃はテープだったから残っているんだけど、いまはハードディスクなので基本的には全部上書きしていっちゃうし、直しちゃうんだよね。ああいうかたちで素材が残ることってこれからはないような気がするんだよね。

木津:唯一カニエ・ウェストが去年出した『The Life of Pablo』みたいに途中でどんどん出していくみたいなことはあるにはありますけど。でも『SMiLE』みたいな例はたしかに本当にないもので、それってファンと双方向のなにかがあったのかなと感じますね。

萩原:たまたまその未発表音源流出のシーンというのが大きな役割を果たしているので、そこの盛り上がりというのはたしかにあったと思う。誰が流出させたのかは知らないけど。ただそういうふうな思いというのはずっと聴いてきた僕みたいなマニアしか持っていないものなのかな。それは本を書いてみてよくわかりました。

木津:僕が今日一番お聞きしたかったのはいまなぜビーチ・ボーイズを聴くかってポイントについてで。00年代後半にビーチ・ボーイズに影響を受けたバンドがいっぱい出てきたというのをお話しましたけど、もうひとつは去年ザ・ナショナルがグレイトフル・デッドのトリビュート・アルバムを出したじゃないですか。あれはすごくわかるんですよ。いま60年代後半に起こったことを再考するというのがすごく重要な意味を持っているんだろうなという。とくにザ・ナショナルみたいにリベラルなバンドが西海岸で起こったことをいまの時代でもう一度やるというのはとても重要だと思うんですけど、そういう意味で言うといまビーチ・ボーイズを振り返ることや、アメリカ建国を振り返って描こうとした『SMiLE』というアルバムをあらためて考えるということはどういうポイントで再評価できるのでしょうか?

萩原:同じだと思う。あのときは出なかったのでそのときに実際どういう意味をもったのかはわからないままなんだけど、あのときだろうが、いまだろうが、要するに「アメリカ建国のときに自分たちがなにをしたか見つめ直してみろ」ってことなんだよね。(“英雄と悪漢 Heroes and Villains”の)「Just see what you've done.」という言葉はトランプにそのまんまぶつけられる言葉でしょ? お前はネイティヴ・アメリカンを駆逐しておいてなにさまのつもりだよって。オバマがせっかく止めていたのに、ネイティヴ・アメリカンの聖地を破壊する石油パイプライン建設を強権的に承認したりして、なにさまだっていうことだから。

木津:なるほど。最後にひとつだけお聞きしたいんですけど、僕たちがいま『SMiLE』を聴くとなるとネットのストリーミング一発で聴けるわけじゃないですか。本を読ませていただいて一番いいなと思ったのは37年間かけて『SMiLE』がすこしずつわかってくるという過程で、ブライアン本人は辛かっただろうし、ファンにとっても辛いことだったのかもしれないですけど、僕にとってはすごく羨ましい体験だと思ったんですね。そういう意味ですぐ『SMiLE』を聴けてしまうような僕ら世代にいまどういう部分を聴いてほしいですか?

萩原:これは本当は本に書かなきゃいけなかったのかもしれなくて、いまさらここでだけ話したら怒られちゃうのかもしれないけど、やっぱりできあがったのはブライアン・ウィルソンの『SMiLE』なわけでしょ。それが2004年の『SMiLE』で。ビーチ・ボーイズ版も2011年に出たんだけど、これも結局はブライアン版にのっとって再構築された仮の姿というか。で、そのビーチ・ボーイズ版が収められた『The Smile Sessions』という5枚組が出ているんだけど、やっぱりこれ全部で『SMiLE』なんだよ。もし『SMiLE』に興味をもってどんなものなんだろうなと思ったら、完成形としての『SMiLE』は1枚ついているけど、その素材が他のCD4枚にわたってバーっと入っているので、これを全部浴びてみてもらいたい。こんな録り散らかしたクリエイティヴィティの発露のしかたみたいなものはいまの時代にできるのかな、というのをいまの世代に聴いてもらえると嬉しいですね。そんなことできないし、そんな馬鹿なことしないって発想してくれてもいいから。ただなんでそんな素材を用意しなければいけなかったのかということも含めて、浴びてみてもらえると嬉しい。値段は高いけどきっと買う価値はあると思う。

木津:そんなものがほかにあるかと言ったらないですもんね。

萩原:3、4時間あれば全部聴けるんだから試してみてもらえると嬉しいかなあ。1枚に組み上がったちゃんとした流れのあるものを『SMiLE』だと思わないで、ほかの素材まで全部含めて『SMiLE』なので、そのへんを追体験してもらえると嬉しい。それを30年間にわたってちょっとずつ聴いてきた人たちがいたんだから(笑)。

木津:はい(笑)。僕もそんな内容の本になっていると思います。

萩原:曲解説みたいにしてバーっと書いてあるところもあるんだけど、そこもさらにおもしろく読んでもらえるんじゃないかなと思っていますね。

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